アストロズのサイン盗み疑惑が注目されたのは、米スポーツメディア「ジ・アスレチック」のケン・ローゼンタール記者らによる告発記事が発端だった。

17年にア軍に所属していたファイアーズ投手(現アスレチックス)らの証言を引き出したことで、うわさレベルだった疑惑に信ぴょう性が増し、問題提起となった。これは、ステロイドスキャンダルが最初に起こったときと同じだ。意識の高いジャーナリストが球界に一石を投じるため、衝撃的な記事を書く。同記者も「ハイテクサイン盗みは球界全体の問題」と書いている。

筆者の取材経験から思い返すと、MLBも7~8年前まではまだ素朴な“ゆるさ”があった。例えば、かつては試合のテレビ中継で捕手がサインを出す場面をアップ映像で流すことが多かった。だが何年か前から捕手のサインはほとんど映さなくなり、映しても遠目だけ。敵のサイン解析に使われるのを避けるためと聞いたことがある。テレビでサインは映さなくなったが、サイン解析自体が今も続いているとしても、不思議ではないだろう。

高性能な電子機器は、今やどのMLB球場にもある。今年のワールドシリーズ中、アストロズがベンチ裏の通路にモニター付きの機器を設置していたことを示す画像が、つい最近SNSで拡散されていたが、ベンチのすぐ裏にパソコンなどを設置している球団は他にも見たことがある。それらがサイン盗みに使われているとは思わなかったが、今の野球環境の中にハイテク機器が入り込んでいることは、ここ数年でますます強く感じている。【水次祥子】