【アナハイム(米カリフォルニア州)2日(日本時間3日)=斎藤庸裕】二刀流復活をかけて今シーズンに臨んだエンゼルス大谷翔平投手(26)に、再び試練が訪れた。

右肘のトミー・ジョン手術から復帰2戦目の登板となったアストロズ戦で1回2/3を投げ5四球2失点で降板。最後の打者に対しては直球の球速が急降下し、異変が見られた。降板後に右腕の違和感を訴え、病院へ直行。MRI検査を受けた。結果次第となるが、軽症でも今後の投手起用に影響を及ぼしそうだ。

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初回こそ3者凡退で切り抜けたが、2回は先頭打者に四球。その後は前回、1アウトも取れずに降板したピッチングと同じだった。バッターと勝負している感じはなく、ストライクを取るのに必死。自分のピッチングと勝負しているだけのように感じてしまった。

メンタルと技術の両方が、狂っているのだろう。普通、先発投手の立ち上がりは、どうしても「今日の調子はどうなのか」という“手探り”の部分がある。速球のキレはどうなのか? コントロールはどうなのか? 変化球はどうなのか? 個人個人で違うものの、こういった基本的な感触を元に「真っすぐがシュート回転しているから腕が振り遅れないようにしよう」とか、「引っかける球が多いから上半身が前に突っ込まないようにしよう」とか、自分で改善するためのポイントを持っている。もちろん、どうにもならない試合もあるが、その“引き出し”の多さが安定感につながってくる。

しかし現在の大谷は、その修正ポイントが分からなくなっているのか、ずれているのか、のどちらかなのだろう。1週間前の登板と同じような内容になってしまうのは、思うような修正ができていない証拠。初回はわずか8球で終わり、「今日はいけるぞ」という感覚にはならなかったのかもしれない。だとしても、しっかりとした技術の裏付けがあれば、ある程度の修正はできる。3連続四球の後、次の打者は三振だったが、これは打者に助けてもらった三振。1ボールの後、左打者の内角に引っかけた2球目のスライダーはボールゾーンからボールゾーンへの、とんでもないボール球だった。これを空振りしていなかったら、連続四球は止まらなかったと思う。

不調の要因として、もう1つ考えられるとすれば、ランナーを出してからのピッチング。クイックで投げなければいけないと考えすぎると、十分な“ため”を作れず、フォームが狂うときがある。ただ、メジャーでは足が特別に速い打者以外は、それほど盗塁を重視していない。日本よりボークの規定がアバウトでキャッチャーの肩もめっぽう強いため、盗塁の難易度が高く、チームで「この投手は機動力で崩していこう」という考え方をしない。クイックを意識して本来の投球ができなかったのであれば、本来の球が投げられるようになるまでは、打者との勝負に専念した方がいい。

右腕の違和感を訴え、MRI検査をしたと聞いた。満塁の場面でそれほどクイックを意識する必要がないのに、最後は球速がガクッと落ちていた。無事を願うと同時に、今後も二刀流を続けるなら、これを機会にしばらくは投手専念で調整しなおさないといけない。大谷のようなパワーピッチャーでスライダーを多投する投手は、どうしても肩肘への負担が大きい。

それに今年は、どのチームも投手の調子が悪い。新型コロナウイルスの影響で満足な調整ができなかったからだろう。大谷は打者としても調整しなければいけなかったし、投手としては故障明けというハンディもある。順調に調整できる環境や万全な体調であればいいが、今のままでは明らかに苦しい。

このような状態で先発していけば、中継ぎ陣の負担も大きくなる。そうなればチームの不協和音も出てくると思う。投手として一流の資質を持っているのだから、フォームの見直しも含めてしっかりと調整し、出直してほしい。(日刊スポーツ評論家)