イチロー1号 凱旋最終打席で1発を狙った理由

<マリナーズ10-5マーリンズ>◇19日(日本時間20日)◇セーフコフィールド

 古巣シアトルのファンへ御礼弾だ。マーリンズのイチロー外野手(43)が、今季1号本塁打を放った。マリナーズ戦に「9番右翼」でスタメン出場し、9回表の第4打席で、狙って右翼席へアーチをかけた。「敵地」にもかかわらず、イチローのボブルヘッド人形が配布された「イチロー・デー」に詰め掛けたファンに感謝の思いを届けた。日米通算25年連続となる本塁打。打点も松井秀喜を超え、日本人メジャー最多の761打点となった。

 感謝の思いを、グラウンド上で伝えたかった。4-10と大差がついた9回表無死。打席に向かうイチローは、古巣シアトルのファンに総立ちで迎えられた。湧き起こった「イチロー」コールには、これが最後になるかもしれないという惜別感が含まれていた。マリナーズ3連戦の最終打席。リーグの違いもあり、次に訪れる機会は、いつになるか分からない。敗色濃厚だっただけに「そういう意味では理想的な場面」と、本塁打を狙いにいった。

 初対戦の救援マーシャルの真ん中高め93マイル(約150キロ)の速球を思いを込めて振り抜いた。知らない投手から狙うならそこしかない。詰まりながらも角度良く上がった打球は、敵地とは思えない大歓声の中、かつて「エリア51」と呼ばれた右翼を越え、スタンドに届いた。シアトルでは12年以来5年ぶり、通算54本目のアーチとなった。

 「印象に残るわね、これは。(本塁打は)イメージはあるじゃないですか。ただそれが実現するかどうかは別の話。そうなったら、そりゃいいよなあ、でもなかなか難しいよなということでしょう」。胸に刻まれる一打となった。

 3年ぶりに凱旋(がいせん)した今回の3連戦は、まさに「イチロー・シリーズ」だった。日程が決まった昨年中に、この日の「ボブルヘッド人形デー」の開催が決定。地元テレビ局はCMで事前告知を繰り返し、ファンに呼びかけた。17日の試合前には、マリナーズのオーナー陣、岩隈、ヘルナンデスから3000安打記念のパネルを贈呈された。「敵」ではなく「功労者」として、最上級の待遇でもてなされた。

 「ボブルヘッドのことはもちろん知っていたし、ただ、全部期待以上のもので表現してくれるから、本当打てて良かった。これだけ盛り上げてくれて、寂しい感じで帰りたくないから、ゲームはちょっと度外視して、今回はそれ(御礼)をしたかったという思いはとても強かったですね」

 移籍後も自宅を構えるシアトルは、イチローにとって第2の故郷。思いは格別だった。「シアトルの人たちは、こんなに僕のことをいまだに思ってくれているのには感激しました」。14年以降、3年連続で年間1本塁打の43歳が、狙って放った「御礼弾」。メジャー通算3033安打の中でも、秀逸な一打として残るはずだ。【四竈衛】