大谷新人王 冷静沈着でも喜怒哀楽が見えた1年

MLBネットワークのテレビインタビューに答え、水原通訳(右)とおどけるエンゼルス大谷(エンゼルス球団広報提供)

【アナハイム(米カリフォルニア州)12日(日本時間13日)=斎藤庸裕】エンゼルスの大谷翔平投手(24)が、今季のア・リーグの最優秀新人(新人王)に選出された。日本選手では01年のイチロー外野手(マリナーズ)以来17年ぶり4人目の快挙。全米野球記者協会会員の投票で、30人のうち25人から1位票を集めるなど137ポイントを獲得。最終候補に残ったヤンキースの2人に大差をつける圧勝だった。ベーブ・ルース以来の本格的な二刀流のプレースタイルが野球の母国で評価された。その一方で、右肘の故障でシーズン通しては投打でプレーできないなど浮き沈みも激しかった。密着した担当記者が大谷の目に着目し、メジャー1年目の喜怒哀楽を振り返る。

 ◇  ◇  ◇

本拠地エンゼルスタジアムで新人王受賞の一報を聞いた大谷は晴れやかな表情だった。野球専門チャンネル「MLBネットワーク」のインタビューを受け、関係者に祝福されると実感が湧いた。その後の電話会見では「すごく光栄なこと。レベルの高い中で1年間やってこられたことがいい経験になった」と声をはずませた。

シーズンを通して大谷の言葉は冷静沈着だった。つかみどころがない。感情の起伏が見えにくい。だが、その目にはその時の心境を映しだしていたように感じた。喜怒哀楽が見えた。

喜び。7月3日、マリナーズ戦で約1カ月ぶりに打者としてメジャーの舞台に戻った。4打数無安打。試合後の会見では目にしわができ、クスリと笑った。「こうやって試合に出られるのはうれしい」。喜びがにじみ出ていた。

怒り。右肘の靱帯(じんたい)損傷のきっかけとなった6月6日のロイヤルズ戦の5回、マウンド上でいらだちを隠せなかった。自分自身への怒りか、降板を告げられて不服だったのか、目は空をさまよった。これほどあからさまな態度を示したのは初めてだった。出場時に必ず応じていた囲み取材は中止。クラブハウスではうつむいていた。

哀しみ。7月26日、仲が良かった女房役のマルドナドが電撃トレードで移籍した。相棒がいなくなった。右肘の故障もあって、ボールを受けてもらうことは出来なかった。「チームは違いますけど、また会うとは思うので。勉強になることもたくさんある」。前向きに話しつつも、目はいつものような力がなかった。

楽しむ。いろいろなことはあったが、みんなに愛されて始まったシーズンだった。1年を振り返り、好きなシーンは「初ホームランはうれしかったですし、ベンチへ帰っても楽しかった」と言った。4月3日の本拠地開幕戦でメジャー初本塁打を放った。ベンチへ戻るとチームメートは知らんぷり。恒例儀式の「サイレント・トリートメント」を味わった。祝福のハイタッチをおねだりすると、一気に周囲から無数の笑顔があふれた。

目は心理を映しだすとされる。大谷の目はほとんどは楽しんでいる目だったように思う。試合前の打撃練習、クラブハウス、時には試合中も、いろいろな場所で笑っていた。エンゼルスの中継ぎ右腕パーカーは「相手の目をしっかり見て、楽しそうだった。自信も感じた」。初対面時の目の印象が忘れられないという。

9月30日、シーズン最終戦を終え、大谷は「もちろんプロだと思うが、野球が仕事という感じがしないが?」と聞かれた。「失礼ですね」と笑うと、間髪入れずに「本当にそんな感じですね。ちっちゃい頃から、そのままここまで来たという感じ」と言い直した。野球少年のような目で突っ走り、新人王の栄誉を得てメジャー1年目は幕を閉じた。

◆大リーグ新人王 ア、ナ両リーグから選ばれる。全米野球記者協会の会員のうち、30球団の本拠地から選ばれたア、ナ両リーグの各30人がレギュラーシーズン終了時に投票。3人連記で1位(5点)2位(3点)3位(1点)の合計点で決める。1947年に制定され、同年に黒人初の大リーガーとなったジャッキー・ロビンソンが受賞。デビュー40周年の87年には「ジャッキー・ロビンソン賞」と命名された。日本選手では95年野茂英雄投手(ドジャース)00年佐々木主浩投手、01年イチロー外野手(ともにマリナーズ)が受賞した。