イチローから雄星へ“すべらない話”お悩み解決

ボールを手に同僚と笑顔で話すイチロー(撮影・菅敏)

【ピオリア(米アリゾナ州)17日(日本時間18日)=四竈衛】イチロー先生が新入り雄星の不安を取り除いた。マリナーズのイチロー外野手(45)は菊池雄星投手(27)からボールが滑ると相談を受け、公式戦では大丈夫と太鼓判を押した。「ライブBP」と呼ばれる実戦形式の打撃練習では、昨年5月2日以来291日ぶりにメジャーの投手を相手に打席に立ち、19日(同20日)に菊池と対戦する可能性も膨らんできた。

イチローは昨季ジャイアンツで14セーブを挙げた快速右腕ストリックランドを相手に、7球中1回スイングし、結果はファウルだった。「別にどうということはないですよ。元々、僕はこれ(ライブBP)が嫌いです。別にマイナスとは言わないですけど、特別にプラスというわけではない」と淡々と振り返った。打者にすれば「目慣らし」にすぎず、基本は投手の調整の一環という位置づけだ。

「嫌い」とはいえ、相手がかわいい後輩であれば話は別だった。練習後のクラブハウス内。いつものようにグラブの手入れをするイチローが、間近にいた菊池に声を掛けたことで2人の会話が始まった。

イチロー 雄星、いつ(ライブ)BP投げるの?

雄星 明後日(19日=同20日)です。

イチロー どうなのかな。打席に立つのかな。見たいなあ、ブルペンも見たい。だって日本で一番いい左投手だからね。

雄星 イチローさん、ボールなんですけど、親指をかける所がどうも…。

イチロー それ、よくわかる。シアトルに行ったら大丈夫。(乾燥地帯の)アリゾナが異常だから。

ほほ笑みながら優しく話すイチローに対し、菊池は恐縮しながらも、滑るメジャー球に苦心している実情を相談。これまで質問したいことが「山ほどある」と話していた菊池に、あこがれの先輩は「大丈夫」と激励の言葉をかけた。

図らずも、前日の菊池は「自分の持っているものを憧れの選手に見ていただけるなら、もちろんうれしいですよね」と素直な思いを口にした。そんな菊池に対し、イチローも直接「見たい」と応答。雄星少年が初めて見たプロ野球は、00年6月6日のオリックス-ダイエー戦(岩手)で、もちろんお目当てはイチローだった。「対決」が実現すれば、2人にとって貴重な空間となるに違いない。

◆ライブBP 米国球界の練習メニューのひとつ。英語では「Live Batting Practice」で、省略して「Live BP」と呼ばれる。実戦形式で打者が打席に立つものの、基本的には投手が試合へ向けて調整する最終段階の意味合いが強く、規定の球数を投げることが最優先。

<なぜボールが滑る?>

メジャーの公式球はローリングス社製で重さ142~149グラム、円周229~235ミリと規格は日本と差がないが、南米コスタリカの工場で手作りで製造されているためふぞろいで大きめの場合が多い。革は薄さで定評のあるホルスタインの雌成牛が使用され、アニリンでなめしてはいるがほぼ自然のままを生かした革になっており、滑りやすいとされている。それに加え、キャンプ地アリゾナ州は乾燥地帯で、昼間の年平均湿度25%前後と低いため、ボールの滑り具合に拍車をかけている。

<日本人投手と滑るボール>

◆松坂大輔 メジャー移籍後のフォームはボールに対応しようと制球を気にするあまり、力感を失った。07年のデビュー6試合では38回を投げ19四死球。審判に注意を受けながらも、指をなめる場面が目立った。

◆前田健太 13年WBCなどに出場し「僕は国際大会の経験で慣れていたので、それほど苦にならなかった」と抵抗なし。

◆平野佳寿 昨年1月の自主トレでボールについて「スライダーは滑る分“抜ける”ところもある」と、抜けるスライダーに手応えを得た。オープン戦は9回を投げ四死球ゼロ。

◆大谷翔平 昨季開幕前にアリゾナ州で投げた実戦5試合では、計13回で12四死球(防御率12・46)。引っかけや抜けが目立ち「ボールやマウンドへのアジャストは慣れていない」と、思うように投げられないジレンマを口にした。