菊池雄星号泣デビュー イチローから「頑張れ」ハグ

アスレチックス対マリナーズ 8回裏、交代したマリナーズのイチローは菊池雄星とハグする(撮影・滝沢徹郎)

<アスレチックス4-5マリナーズ>◇21日◇東京ドーム

マリナーズ菊池雄星投手(27)が21日、アスレチックス戦(東京ドーム)で米大リーグ初登板、初先発した。立ち上がりから順調にアウトを重ねたが、勝利投手の権利を目前とした5回にボールが高めに浮き、強打のアスレチックス打線につかまった。結局4回2/3を投げ2失点で降板。初勝利はお預けとなった。8回の守備で退いたイチローに深々と頭を下げ「頑張って」と声をかけられると号泣。貴重なデビュー戦を糧とする。

今まで何度も泣いてきた。だが15歳から夢見ていたメジャーのデビュー戦で、伝説のために泣くことを想像していただろうか-。ベンチ前でイチローの胸に顔を埋めた。「頑張れ」。同志からの最後のエールに、菊池は帽子をクシャッとわしづかみにして涙をこぼした。

巨星が去り、新星が生まれる。マリナーズの歴史的な日に日本でメジャーデビュー戦に臨んだ。夢見ていた舞台の初球。146キロ直球のストライクで船出を切る。先頭はボテボテの一塁線へのゴロ。だが一塁手が捕りに行くか、ためらう。菊池は自ら捕球し、少しよろめきながら一塁ベースを踏んだ。どよめきに左腕も苦笑いした。続くチャプマンは日本での宝刀スライダーで仕留めた。渡米後から「指に掛からなくて本来の曲がりではない」と苦闘していたが、昨季24本塁打の右打者の内角低めをえぐり、空振り三振。プレー続行しそうだったが、慌ててゴードンが止め、記念すべき初三振のボールが確保された。

渡米後、生まれた魔球も駆使した。3番ピスコティにはカーブを3球、まぶした。抜けが良くなったカーブは、世界屈指の球と称されるドジャースのカーショー級の軌道と球団首脳陣は評価する。最後は幻惑しながら146キロ直球で右飛。イチローが捕球し、2人の初の共同作業が完了した。

ヒーローとともにプレーしたかけがえのない時間。試合後の会見でメジャー初登板がイチローとの唯一の試合となったことを問われると、言葉を詰まらせた。約1分間。必死に涙をこらえ「幸せな時間でした」と絞り出した。

初めて見たプロ野球は、地元の岩手でのオリックス-ダイエー戦。お目当てはイチローだった。少年時代から憧れ続けてきた男が迎えた節目。「キャンプからこの日まで…。イチローさんは日本でやることがギフトとおっしゃいましたが、僕にとってはイチローさんとプレーできる時間が最高のギフトだと思ってます」。レジェンドから、マリナーズのエースとなることを託された。先人がつむいできた伝統を、菊池は全力で受け継ぐ。

▼大リーグデビューが先発だった日本人投手は菊池で18人目で、左腕では5人目。チーム2試合目で先発デビューは、09年上原(オリオールズ)以来2人目だったが、上原に並ぶ最速での白星デビューはならなかった。