ダルビッシュ新天地で“新化”斬新発想から新魔球

ダルビッシュのボール変化量。左が2019年で右が2020年

昨年末にカブスからパドレスにトレード移籍したダルビッシュ有投手(34)は、新天地でどう“進化”していくのか。60試合の短縮シーズンだった昨季は8勝3敗、防御率2・04の結果を残し、サイ・ヤング賞の投票では2位の得票だった。MLB公式のデータサイト「スタットキャスト」から19年シーズンとの投球データを比較し、成長を続けるダルビッシュの今後を探った。

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今季も“ダル流の新球種”が生まれるか-。一昨年から昨年にかけ、ダルビッシュの直球と変化球に新たな動きが加わった。昨年はスプリットとツーシームの間の感覚で投げるボールを「スプリーム」と命名。変幻自在にボールを操り、全球種に改良を重ねてきた。持ち球のミックスで、今年もオリジナルの魔球が誕生する可能性は大いにある。

「スタットキャスト」のデータを元に、野球の新しい教科書的ウェブサイト「ベースボールギークス」が作成した各球種の変化量を比較すると、顕著な違いがある。昨年、フォーシームやツーシームの速球系とスプリットに増した変化が「シュート成分」。また一昨年、ツーシームとスプリットの変化量は広範囲でばらついていたが、昨年は変化の範囲が狭く、互いに重なっている。自身が命名したように、2球種の変化が融合していた。

フォーシームもシュート成分とホップ成分が増し、平均球速は約2キロ上がった。シュートすることは野球の指導において基本的に避けるべきとされてきたが、昨年9月、ダルビッシュは自身のツイッターで意図的だったことを明かした。シュートする、のではなく、あえてシュートさせる。固定観念に縛られない考え方で改善し、結果を残した。

多投しているカットボールは、一般的には直球の軌道でややスライドする球種だが、昨季は縦、横、ホップ成分の変化が満遍なく表れている。実際に例を挙げると、8月18日のカージナルス戦、4回1死満塁の場面で同球種の投げ分けを披露した。「カッターでも緩急をつけているので。85とか86マイルを見せて、最後、球速を上げて空振りをとろうと思ってました」と、イメージ通りに89・1マイル(約143・4キロ)で空振り三振を奪った。

各球種に変化を加え、最近では中日の左腕・大野雄のツーシームとヤクルト伊藤智仁投手コーチの現役時代のスライダーをイメージし、ブルペンで試投した動画をYouTubeで公開。キャンプイン前には専属捕手カラティニを相手に投球練習を行い「大野投手ツーシーム、伊藤智仁さんスライダーを褒めてくれました笑。打者相手に投げるのが楽しみ」とツイッターに投稿した。試行錯誤で得た引き出しと斬新な発想。その組み合わせで、魔球誕生は続く。【斎藤庸裕】

◆変化量 ボールが無回転だった場合、重力の影響のみが変化に関わり、そのボールが到達する場所が図表の原点となる。変化量は、実際のボールの回転数や、回転軸の影響を受けて、どのくらい変化しているかを数値化して示したもの。回転数と回転軸が、変化量を決める大きな要因となる。

◆投球結果の分析 直球は対右打者の被打率が大幅に改善され、左右ともに空振り率が上がった。全体的に球速は約2キロアップし、直球とカーブの緩急の差が広がった。また、左右ともにスライダーの精度が上がった一方で、対左打者では空振り率が下がり、打たせて凡打とする傾向が出ていた。

◆新球種の妄想 スプリットとシンカーの間なら「スプリンカー」、スプリットとスライダーの中間なら「スプライダー」、シュートと2シームの間なら「シューシーム」、カットボール(カッター)とスライダーの間なら「スラッター」など。