カブス今永昇太「80歳になった時、僕のことを批判する人なんかいない」メジャー挑戦の“哲学”

石川氏(左)はDeNAの後輩でもあるカブス今永を激励する(撮影・四竈衛)

<ハマのリポーター 石川雄洋 in USA(1)>

DeNA初代主将で引退後はアメフトに挑戦し、現在は野球解説者の石川雄洋氏(37)が、米アリゾナ州で行われているメジャーのキャンプを初取材。海を渡ったプロ時代の盟友らの今を「ハマのリポーター 石川雄洋 in USA」と題してお届けする。第1回は、DeNA時代の後輩で今季からメジャーに挑戦するカブス今永昇太投手(30)。「投げる哲学者」と呼ばれる左腕の本心に迫った。【取材・構成=四竈衛】

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野球界から引退して4年目。初めてメジャーのキャンプを見て、環境や雰囲気の良さに、また野球をしたくなるような気分になりました。そんな空間で今永がプレーしている姿は、とても頼もしく映りました。

石川 まずは入団おめでとう。

今永 ありがとうございます。

石川 ありきたりだけど、シカゴの街はどう?

今永 めちゃくちゃいいですよ。日本のスーパーもあって日本食レストランもあって、初めは野球よりも生活環境に不安があったんですけど、交渉の時に街を訪れて全然大丈夫、いけるじゃんと思いました。

石川 住まいは豪華で広いんでしょ?

今永 いやいや、1人ですので。大体80平方メートルくらいかな。大きくても寂しいだけなんで(笑い)。

石川 日本食以外は?

今永 元々、いったんはすべてを受け入れるというマインドで来てるんで。時には、ハンバーガーやピザになっちゃうかもしれませんが、初めからこれがないと無理とか考えると、ストレスがかかりますし、なくて当たり前なので。そうしないと人間としても通用しないじゃないですか。

石川 通訳なしで話しているのも印象的だった。

今永 通訳が付きっきりだと、逆に話しかけてもらえなくなったりすると思って。何となく言ってることも少しずつ分かってきたつもりではいるので。

石川 今永は頭がいいからね。

今永 良く見せてるだけですよ(笑い)。英語もまだまだですけど、今は家で英語を流しっぱなしにして、とりあえず英語が耳に入ることのストレスをなくす、というのを意識してやっています。

石川 それも今永らしいけど、これまであたふたしてるところを見たことがない。度胸があるというか。

今永 いや、度胸はないですよ。結構、臆病です。試合前とかもネガティブですし、ストライクが入らなかったらどうしようとか、そういうレベルから始まるんで。ただ、度胸はないとか臆病とかを自分で理解しているので、それがもしかしたらひっくり返ってるのかもしれないですね。

石川 まあ、哲学者と言われてるぐらいだからね。

今永 8年間、何で言われてんのかって思ってました(笑い)。

石川 試合で自分が投げた球を、ほぼ覚えているというのは本当?

今永 覚えてますよ。自分の初安打も覚えてます。

石川 僕はおもしろい今永もクレバーなところも見てきたし、本当はめっちゃおもしろい。1発芸もやっていたし。

今永 まあ、やれと言われれば(笑い)。まだルーキーなんで。

石川 勝ち星とかの目標はある?

今永 勝ち星より、米国で先発に求められるのはイニング。100球の中でどれだけイニングを投げるか。そこは頭を使って、初球からベストボールに行くのか。自分と相手の力をてんびんに掛けて、そこが実戦でやっていかなきゃいけないところだと思ってます。

石川 バウアーから学んだことは?

今永 彼は投げたいタイプの選手ですが、その代わりリカバリーとか次の登板に向けてのプロセスに根拠があって、すごく勉強になりました。

石川 まだ開幕前だけど、日米の違いは感じる?

今永 外でのアップはみんなにこやかにやってますけど、中では誰もしゃべらずに黙々とトレーニングをしてるんです。それを見て印象が変わりましたね。ここは相当厳しい場所だと思いました。10時にアップ開始だとして9時半に来る選手はいない。みんな7時とかに来てやってるんです。そこはビックリしました。

石川 去年、日本でのインタビューで「米国に行くの?」と聞いたら、「イシさん(石川)もアメフトに挑戦してるし、人生1回なんで」と答えた時、メジャー行きを確信した。

今永 人生の成功なんて、メジャーが終わった時にも分からないでしょう。死ぬ時にどうか、というのが僕の考え。80歳になった時、僕のことを批判する人なんかいないでしょ。だったら自分の思うように行動して、全うしようという考え方なんです。最後は自分次第だと思います。

石川 現役時代、後ろで守っていて、唯一対戦したいと思ったのが今永。

今永 イシさんは左打ちだからファウルで粘って、甘いところを普通に打たれたと思いますよ(笑い)。

まさかメジャーのキャンプのグラウンドで、今永に会えるとは思っていませんでした。大変な世界でしょうが、賢い後輩だけに、しっかりと結果を残してくれると信じています。

◆石川雄洋(いしかわ・たけひろ)1986年(昭61)7月10日、静岡県生まれ。横浜から04年ドラフト6巡目で横浜入り。06年に1軍デビューを飾り、09年にレギュラーに定着。主に内野手でプレーし、21年3月に引退を発表。同年5月にアメフト挑戦を表明し、社会人Xリーグのノジマ相模原ライズに加入し、WR(ワイドレシーバー)として2年間プレーした。プロ野球通算1169試合に出場し、打率2割5分6厘、23本塁打、224打点、118盗塁。