<SAMURAI×MLB>
ドジャース大谷翔平投手(31)の父徹さん(63)が、岩手・金ケ崎リトルシニアで監督を務めながら、子どもたちの将来に向け、力を注いでいる。今年8月には、岩手・奥州市と友好都市の米カリフォルニア州トーランスに野球交流を目的に選手20人、コーチらと渡米。ドジャース戦を観戦し、現地のチームとも対戦した。岩手から世界へ-。徹さんの指導哲学、野球普及への思い、子どもたちへの願いなどに迫った。【取材・構成=久保賢吾】
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9月下旬。雨の影響で練習は、廃校の小学校の体育館を改築した室内練習場で行われた。練習開始の午前9時を前に、和やかな雰囲気が流れる中、記者が足を踏み入れた瞬間、キャプテンの一声で全員が直立不動になり、あいさつの声が響いた。
「当たり前にできることをしっかりやりましょうよと。歴代の先輩の姿を見てるので、それに倣ってという感じだと思います。プレーであれば、全力疾走や連係の声出しなど、基本的なことをしっかりやることが大切だと思います」
野球への恩返しを胸に、2014年に金ケ崎リトルシニアを発足した。周囲のサポートも得ながら、練習場の確保、指導者、選手募集から始めた。
「私自身、社会人までプレーして、子どもも野球をやってきて、翔平はプロの世界にも入れた。野球がなければ全然違った人生でしたし、野球に感謝しなきゃいけない、恩を返さなきゃいけないと思った時に僕にできるのは、こういうことじゃないかなと」
指導者からの助言は、選手が成長する上で必要だが、選手自らが考え、行動することも求める。チームスポーツでは、意思疎通や情報共有は重要な要素であり、一般社会にも通じる。
「麟太郎(佐々木=スタンフォード大)の代は、すごかったですね。麟太郎がキャプテンをやったんですけど、最初に『全員で共有することは大事だよ』って話をしただけで、私が言わなくても、麟太郎を中心に常に選手間でミーティングをやってましたからね」
中学の次は、高校、大学、社会人、プロなどレベルも上がる。中学は無限の可能性を秘める年代であり、今よりももっと先を見据え、選手たちに接する。
「今が終わりじゃないので。大事なのは、この先の高校、大学で活躍してくれることですから。今は小さくて細くても、トレーニングを重ねることによって、成長もしていきますし、伸びしろを大事にしたいなと思っています」
選手たちの可能性を広げることを念頭に置き、試合での起用法にも幅をきかせながら、さまざまな形でチャンスを与える。
「投手に関しては3回や2回ずつくらいに分けて、1試合を3人とかで。体の負担もあるし、どの子に可能性があるのかも見たいので。適性を見ながら、1つのポジションにこだわらず、複数のところをやらせるようにしています」
練習、休養、勉強などバランスを意識しながら、タイムスケジュールを組む。祝日の練習日は午前9時開始であれば、午後4時過ぎには終了し、自宅での自分時間に充てる。
「やりすぎもよくないし、やらなさすぎもよくないので、バランスを考えながらですね。体を休める時間も必要ですし、グラブなどの道具の手入れとか、宿題をしたりすれば、1時間以上はかかるのでそういう時間に使ってほしいなと」
かつては、翔平が小学生、中学生時代に所属したチームで指導者も務めたが、息子に練習を強制したり、付きっきりで自主練習を見ることもなかった。
「練習の中で目いっぱいやりなさいって言ってたので。その代わり、練習の中で手を抜いたらダメだぞと。帰ってきてから自主トレという形で素振りするとかは、自分がやることなので。それは勝手にやればいいので、私からやれって言うことはなかったです」
8月には岩手・奥州市と友好都市の米カリフォルニア州トーランスに野球交流を目的に選手20人、コーチらとともに渡米。現地のチームと6試合し、ドジャースの試合も観戦した。
「選手のスピードやパワーとかを感じてくれたらなと。打球音、捕球音とかも聞こえますし、貴重な体験だったのかなと思います。山本君がキャッチボールしてたボールをスタンドに投げてくれて、キャッチした子がいるんですけど、それもいい思い出ですよね」
今年の3年生が10期生で、チームの歴史は脈々と受け継がれる。将来的に教え子たちが、グラウンドに戻り、思いがつながっていくことを夢見る。
「卒団した子が、教えに来てくれればうれしいですし、つないでいってくれればいいなと思います。やっぱり人と人のつながりなので。つながった縁を大事にしてほしいです」
◆大谷徹(おおたに・とおる)1962年(昭37)5月17日生まれ、岩手・北上市出身。黒沢尻工、三菱重工横浜(現三菱重工East)でプレーした。2014年から金ケ崎リトルシニアで監督を務める。家族は妻と2男1女。長男龍太はトヨタ自動車東日本で監督を務め、次男翔平はドジャースでプレーする。
◆金ケ崎リトルシニア 2014年に発足し、岩手・奥州市、金ケ崎町を中心に活動する。ドジャース大谷の父徹さんが監督を務め、米スタンフォード大・佐々木麟太郎、佐々木の妹で読売ジャイアンツ女子チームの秋羽(しゅう)らがプレーした。現在は2年生が9人、1年生が7人所属する。
■8月、米で6試合
金ケ崎リトルシニアの選手20人が、今年8月に岩手・奥州市と友好都市の米カリフォルニア州トーランスに野球交流を目的に訪れた。現地のチームと6試合し、ドジャース戦も観戦。ホームステイで米国の文化にも触れた。2年生からは2人が訪問し、高橋昊雅さんは「投手はストレート主体で、日本と米国の野球の違いも学べることができた」と実感。佐々木海さんは「フレンドリーに受け入れてくれて、コミュニケーションの大事さを学んだ。大谷選手の本塁打も2本見られて、うれしかったです」と笑顔で話した。