MLBのトレード期限が3日(日本時間4日)、終了した。ワールドシリーズ3連覇を目指すドジャースが2年連続サイ・ヤング賞の左腕タリク・スクバル投手(29)を獲得したのをはじめ、ポストシーズンを目指す各球団が積極的に補強した。日本では依然としてマイナスイメージさえ残っているトレードが、なぜこれほどまでに活発なのか。米球界の事情、ビジネス戦略の背景を検証する。【四竈衛】
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期限まで残り数時間となった3日午後、トレード特番を放送していた「MLBネットワーク」では、数分おきにトレードアラート(警報)が流れ、次々に選手の名前と移籍先が報じられた。19年ドラフト全体1位のアドリー・ラッチマン捕手(28=オリオールズ)がレッドソックス、首位打者3度のルイス・アラエス内野手(29=ジャイアンツ)がフィリーズ、23年WBCで侍ジャパンの一員として活躍したラーズ・ヌートバー外野手(28=カージナルス)がダイヤモンドバックスへ移籍するなど、例年以上に慌ただしい1日となった。
なぜ、米国でここまで移籍市場が活発化するのか。その答えはシンプルかつ明快と言っていい。
毎年、公式戦が100試合を超える7月末が近付くと、各球団は自軍のスタンスに関して重大な決断を迫られる。優勝争いを繰り広げている上位球団が不足部門を補強するのは当然だが、ワイルドカード争いで圏内にいるチームは本気で狙うのか、それとも現状維持で戦い抜くのか。積極的な「買い手」になるのか、もしくは「売り手」に回って来季以降の再建へかじを切るのか。各球団の方向性が明確に色分けされるのが、トレード期限でもある。
裏を返せば、補強を進めない球団は「勝つ気がない」と判断され、チームの士気にも影響する。実際、まだポストシーズン(PS)進出の可能性がありながらトレード期限までに動かなかったチームで、選手から首脳陣批判が起こるケースも少なくない。
では、どのような流れでトレードは決まるのか。
トレードの有力候補となるのは、その年のシーズンオフにFAとなる選手が大多数を占める。たとえば、今回のスクバルの場合、今オフ、FAとなれば総額3億~5億ドル(約800億円)クラスの超大型契約が見込まれることもあり、早い時期から再契約を困難と判断したタイガースは放出を本格的に検討。他球団の若手有望株を複数獲得し、近い将来の主力として育成する方針を固めた。つまり29球団すべてに獲得のチャンスはあったことになる。結果的にドジャース移籍に落ち着いた一方、ヤンキース、カブスなども接触。タ軍側が交換要員として希望した選手の放出を、それぞれの球団が拒否したため、有望な若手3選手を交換要員として提示したド軍との交渉が成立した。
トレード期限直前に移籍し、同年オフにFAとなる選手の場合、基本的にPSを含め約3カ月間の「レンタル」。その一方で、近年はチームの中軸として中長期的な戦略の一環として動くケースも増え始めており、スクバルをはじめ、レッドソックスが獲得したラッチマンらは、今後、早い時期に契約延長交渉に移行する可能性も見込まれる。
今季、好成績を収めているトップクラスの選手ばかりに白羽の矢が立つわけでもない。これまでに実績を残しながら、今季は不安定さが目立っていたペラルタ(メッツ→レイズ)、カスティーヨ(マリナーズ→ホワイトソックス)らのベテランに対しては、レ軍、ホ軍ともコーチ陣らが完全復活可能と判断し、獲得に踏み切った可能性が高い。環境が変わることだけでなく、メカニックなど具体的な修正を施し、本来の実力を取り戻すケースも多い。
では、主力選手を放出した低迷球団は、ただ消化試合をこなすだけなのか、と言えば、決してそうではない。むしろ逆で、交換要員で獲得した選手だけでなく、大胆な若手登用でチーム力の底上げに転換する。96年、ツインズはデービッド・オルティスをマリナーズから獲得。球界を代表する長距離砲として育成した。16年、アストロズがドジャースから獲得したヨルダン・アルバレスは、今季3冠王を狙える大砲となった。21年、カブスがメッツから獲得したピート・クローアームストロングは、今季、大谷と並ぶMVP候補に挙げられるほどのスター選手となった。それほど、有望なマイナー選手を見抜く眼力は重要と言っていい。
資金力が潤沢なドジャースが、スクバル獲得に成功したことで、「金満球団」に対して批判の声も聞かれる。だが、相手球団が納得できるだけ、数多くの有望選手を地道に発掘してきたスカウティング、育成力も見逃せない。
昨季のワールドシリーズでドジャースをあと1歩のところまで追い詰めたブルージェイズが、今季、地区最下位に低迷するほど、メジャーの戦いは熾烈(しれつ)で、めまぐるしい。
目の前の一戦だけでなく、常に先を見据えつつ、入念な戦略を選択しない限り、常勝球団は築けない。活発に動いた今季のトレード市場。ドジャースの3連覇を阻むとすれば、果たしてどの球団なのだろうか。
◆日本人メジャーの主なトレード移籍 11年、オリオールズ上原浩治が、レンジャーズへ移籍。ワールドシリーズに進出した。12年、マリナーズのイチローは自らの意思もあり、ヤンキースへ移籍。リーグ優勝決定シリーズに進出した。17年、レンジャーズのダルビッシュ有は、トレード期限数分前にドジャースへの移籍が決定。ワールドシリーズに進出した。
◆トレード期限後の移籍も可能 今季は8月3日にトレード期限が終了したとはいえ、メジャー40人枠から外れた選手であれば、今後も移籍は可能。18年まではウェーバー公示したうえでの交換トレードも可能だったが、現行ルールではFAとなるか、マイナー選手でなければ移籍はできない。今後は、戦力外通告となり、マイナー行きを拒否した選手がFAとなれば、他球団は獲得可能。基本的に年俸の残額の大半は旧球団が負担することになる。