稲葉篤紀監督(45)が、初陣でドラマチックな逆転サヨナラ勝ちを収めた。「ENEOS アジアプロ野球チャンピオンシップ2017」が16日、東京ドームで開幕。タイブレークの延長10回表に3点を失い、その裏、ソフトバンク上林誠知外野手(22)が起死回生の同点3ランを放った。さらに2死二塁からロッテ田村龍弘捕手(23)が左中間を破るサヨナラ二塁打。6回には4番の西武山川穂高内野手(25)が2ランを放つなど、ナインは要所で粘り腰を披露した。

 まさに起死回生の一撃だった。無死一、二塁から始まる延長タイブレークで、韓国に先に3点を勝ち越された直後の10回裏だ。5番上林が、稲葉ジャパンを徳俵から土俵中央に押し戻した。山川が左飛の1死後、右中間へ同点3ラン。カウント3-1から、咸徳柱の直球を振り抜いた。打球は右中間席ぎりぎりに届いた。

 「すごくうれしかった。3点差なら、何とかいけると思っていた。3-1なので真っすぐを狙っていた」。奇跡の同点劇。あと30分ほどで、日付が変わろうとしていた。

 稲葉監督は大会前に「彼と心中します。20年に向けても考えている選手」と、クリーンアップでの起用を明言。東京五輪も見据えての決断だった。打ち方が似ており「稲葉2世」とも呼ばれる22歳の若武者は「結果を残すことが一番。内容にもこだわりたい」と、前日15日の公式練習で答えていた。その通り、インパクト十分のアーチで指揮官の初陣勝利につなげた。

 日韓戦は意識する試合だった。母蓮草(よんちょ)さんは韓国出身。母の影響で、幼稚園からの数年間は韓国創始とされるテコンドーをやっていた。埼玉生まれの上林は「家でサッカー(の日韓戦)を見てたら日本ばかり応援してしまう」と話すが、自身のルーツとも言えるこの日の韓国戦に向けては「母親も息子を応援してくれると思う。日本にとって永遠のライバルなので」と闘志を燃やしていた。

 飛躍した今季はシーズン初めて規定打席に到達。だがポストシーズン前に調子を崩し、CSファイナルステージは2試合出場で無安打。チームが突破を決めても、悔し涙を流す姿が印象的だった。日本シリーズは代打の1打席のみに終わった。「あれを忘れてはいけない」。悔しさをバネにしようと臨んだ稲葉ジャパンの初陣で、最高の結果を出した。【大池和幸】