<SMBC日本シリーズ2018:広島0-2ソフトバンク>◇第6戦◇3日◇マツダスタジアム

広い肩幅で、極上のダークスーツをパリッと着こなす。真っ赤に染まったマツダスタジアムのマウンドへ、広島出身の歌手で俳優の吉川晃司(53)が大歓声を受けて向かった。

少年時代はカープの帽子をかぶって通学した生粋の広島ファン。TBS系列のドラマ「下町ロケット」に帝国重工の財前部長役で出演中で、ドラマと同じスーツを脱げば、ベストの背中に「カープ坊や」が現れた。「どこかにカープをつけておきたかった」と、ワンバウンド始球式を苦笑いで振り返った。

広島が最後に日本一になった84年、19歳の吉川は大ヒットソング「モニカ」でデビューした。今季の開幕戦は広島出身の世良公則が君が代独唱を行い、16年のCSファイナルは奥田民生が始球式に登場。今や「カープ芸人」の言葉も定着。アーティストを数多く輩出する土地柄で、そんな有名人たちからも熱烈に愛されるのが、広島ならではの光景になってきた。

吉川は、父が原爆に被爆し「被爆2世」にあたる。13年8月6日には背番号「8・6」のユニホームで始球式を行い、5回終了時に「イマジン」を独唱。忘れられない思い出は、広島が初優勝した75年、10歳の時に見た故郷の姿だった。

「初めて優勝したパレードの時にね、皆さんご家族の遺影とかを持って並んでいたのを、すごく強烈に覚えてます。みんな『おめでとう』ではなく『ありがとう』って言ってました。カープはやっぱり戦後の復興のシンボル。市民の思いから生まれた球団で、そこは他の球団と違うところがあると思います」

吉川がデビューした84年に生まれた先発ジョンソンは、6回2失点と好投した。初のリーグ3連覇で、日本シリーズに進出。34年ぶりの夢はかなわなかったが、みんなきっと「♪Oh サンクス、サンクス、サンクス、サンクス、カープ♪」なんだ。【前田祐輔】