記事を書くことを生業にしている以上、取材の経緯や裏側をバラすようなことは、本来であればしたくない。ただ、今回の連載取材を打診したところ、ヤンキース田中将大投手(30)は当方が考えている意図を真剣に受け止め、正面から対応してくれた。

そもそも、現役真っただ中でバリバリのメジャーリーガーに対し、現状や今後ならともかく、過去を振り返ってもらうこと自体、実は礼を失する。現役でいる限り、過去を振り返るのは「引退してから」と言い切る選手も少なくない。

それでも、田中はマウンド上で真剣勝負する姿勢通り、率直に、心を開いて向き合ってくれた。無理を承知で依頼すれば、プレーオフ進出をかけて戦っていた今季終盤、空いた時間に話を聞くことは可能だったかもしれない。だが、おそらく田中は、基本的に「無機質な」質疑応答など求めていない。だからこそ、全日程を終えたオフ、プライベートな時間を割いて、これまでの野球人生を丁寧に振り返ってくれた。

「昭和生まれ」としては最後のプロ野球選手世代。野村克也、星野仙一ら歴代の名将を師として育ったことも、田中が心身ともに、多岐にわたって熟した要因に違いない。好みのアイドル、テレビゲームに隔世の感はあっても、平成で活躍してきた田中の誠実な姿勢に、昭和の「残り香」を感じたのは、おそらく気のせいではない。【四竈衛】