完全復活を目指す怪物が前代未聞のアクシデントに見舞われた。中日は11日、松坂大輔投手(38)が右肩の違和感のため、ノースロー調整に入ると発表した。発表によると沖縄・北谷キャンプの序盤にファンに右腕を引かれ、その後に違和感を覚えた。今後のスケジュールは白紙で開幕にも黄信号がともった。即席サイン会などで熱心にファンサービスしてきたが、悲しい事態を引き起こす結果になった。

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名物になっていたファンサービスが「悲劇」に変わった。松坂のキャッチボールの距離が伸びなかった裏に衝撃の理由があった。

球団によるとキャンプ序盤、ファンと接触した際に右腕を軽く引かれるような形になり、違和感を覚えたという。与田監督らにこの日の朝、正式に報告された。松坂はグリーンカード(米永住権)更新のため一時渡米した5日から3日間不在。8日に戻ってから前日10日まで毎日投げたが、状態は変わらなかった。幸い、痛みはなく、当面ノースローは大事を取っての判断だ。

うっぷんを晴らすかのように、この日は1人、約30分も室内にこもり左右の打席で120スイングもマシン打撃を行った。言葉は発せず球場をあとにした。今後、病院に行くとみられ、再びキャンプを離脱する可能性もある。開幕に間に合うかは微妙になった。

右肩は最もナイーブな箇所だ。15年から3年間所属したソフトバンクでは右肩の不調で1試合登板。昨年、中日で劇的な回復を見せて6勝を挙げた。

今年も良好な状態でキャンプイン。だが人気沸騰のあまり多数のサイン入りグッズがネット競売に出され、球団が注意喚起していた。それでも「僕が考えても仕方がない」と即席サイン会を継続していただけに、何ともやり切れない。

事態は北谷運動公園で最も警備が難しい場所で起こった。ブルペン横の立ち入り禁止ゾーンとメイン球場の間の約20メートル。一般人や球団の車も頻繁に通る道で柵は置けない。選手に気安く触れることができる、人気スポットだ。松坂が通る際には数十人が集まり「花道」のようになる。ハイタッチや軽い握手をしながら通っていく際に、右腕をとられた。必ず2人の警備員が松坂の前に付いているが完全には防備できない。

球団はこの3連休に警備員を倍の4人に増強。球団職員を追加で呼び寄せたりと策を講じてきた。一方でファンサービスに制限を設けることはしたくない。西山球団代表は険しい表情で「万全を期します」とだけ話した。中日だけでなく、人気商売のプロ野球全体に波及しそうな事態だ。【柏原誠】

▽中日与田監督 選手もなんとかサインをしてあげたいという中で起きたこと。起きた瞬間は松坂もそう厳しくは考えてなかったと思う。数日間、悩んだんでしょう。僕も前に行こうとするときに後ろから引っ張られたことがある。手を持って行かれることはある。とにかく選手を守らなければいけないので球団としっかり相談をしながら、防止策を考えなければいけない。

<中日松坂の今キャンプ>

◆1日 2年ぶりとなった背番号「18」を披露。ドラフト1位根尾と初対面し「勘違い」を勧めた。

◆2日 練習後、異例の1時間30分におよぶ単独サイン会を開いた。丁寧にペンを走らせ、並んだほぼ全員、約300人と触れ合った。

◆3日 報道陣シャットアウトで打撃練習。夕方にブルペンでシャドーピッチングなどフォーム確認。

◆5日 グリーンカード(米国永住権)取得のため、自宅のある米国に一時渡航。

◆8日 沖縄・北谷キャンプに再合流。弾丸スケジュールで、現地滞在は1日足らず。室内で1人、ダッシュやキャッチボールを入念に行った。サイン会も行った。

◆9日 連日の即席サイン会を開いた。室内練習場の前で約30分、ペンを走らせた。