議論は深まるか-。日本高野連による第1回「投手の障害予防に関する有識者会議」が26日、都内の明治記念館で行われた。

出席した委員は12人。女子ソフトボール元日本代表監督の宇津木妙子氏、早大・小宮山悟監督、筑波大・川村卓監督、土屋好史日本中体連・軟式野球競技部専門委員長ら、他競技、他カテゴリーの元選手・指導者だけでなく、弁護士、大学教授、スポーツ医ら広い分野から専門家が集った。

会議発足の契機は、昨年12月に新潟県高野連が19年の春季県大会で球数制限を導入すると表明したことだ。大きな議論を呼んだが、最終的には全国一律のルールを求める日本高野連の再考要請を受け入れ、導入は見送られた。日本高野連は全4回の会議を経て、有識者による提言を目的としている。

この日は各委員が持論を展開。議論の発端となった新潟県高野連の富樫信浩会長は、同県の取り組みを紹介した。配布資料には、こう大書されていた。

選手の将来第一「義」

Player’s Future First

8年前に新潟県青少年野球団体協議会を設立し、障害予防に取り組んできたこと。背景として、県内は人口減少の6倍の速さで野球人口が減っていること。高野連から範を示すべきという考えなどを紹介した。

興味深かったのは「スポーツマンシップの醸成」についてだ。

「球数制限の話になると、待ち球作戦やファウル打ちが増えるという話題が起きます。ですが、そもそも次元が違う話ではないでしょうか。勝利のためには、どのような手でも使うものなのか。勝利至上主義とは何なのか。そのような選手を育てることが野球の本質でしょうか」

熱く訴えた。

一方で、07年夏の甲子園優勝時の佐賀北監督で、現在は同校野球部副部長を務める百崎敏克氏の主張も耳目を集めた。

「あの夏は7試合で計73イニング、2人の投手がいました。なぜ複数だったかというと、1人じゃ勝てなかったからです。足らない部分を2人で、ということ。ですが、私は投手複数制を推奨しているわけではありません。福岡のアンケートだと、高校指導者の82%、投手の87%が球数制限に反対といいます。高校生なんだから、現場に任せて欲しいと。私も球数制限には反対です。新潟の試みはいいと思います。なぜ(日本)高野連はストップをかけたんだろう、と思います。ただ、地区大会から全国大会へと続く、負けたら終わり、という中ではやって欲しくない」

新潟県が掲げる「選手の将来」についても、異なる視点から意見を述べた。

「新潟の提案は素晴らしいと思います。ただ、生徒の将来、と言った時、うちの学校は3年生が19人いましたが、大学でも野球をやるのは1人だけでした。高校で野球をやるのが、彼らの最大の目標なんです。球数制限に反対すると勝利至上主義と言われますが、そんなに投げさせているわけではありません。今、1年生が練習に参加していますが、大して投げていないのに、肩、肘が痛い、という子が出ている。ずっと受験勉強をやっていたからです。それでも投げられる子もいます」と、ケース・バイ・ケースであると主張。最後に、こう強調した。

「将来ではなく、今なんです。私たちにとって」

これに対し、富樫新潟県高野連会長は、こう述べた。

「私たちがいう将来とは、プロ野球を頂点とした将来、という意味ではありません。野球をやって、肩、肘を壊していいのか。親になってからも、野球を支えてもらいたいという意味です」

野球人口減少に危機感を覚え、既に10年近く、県全体で障害予防に取り組んできた新潟県。野球エリート校ではない普通の公立校で、青春を野球にささげる生徒たちを教える監督。それぞれの立場からの意見表明だった。

会議後、富樫会長は「議題に挙げていただいて、ありがたい。賛否両論が出るのは分かっています」と、有識者会議発足に感謝していた。

百崎氏は「球数制限以外の環境整備で、投手の負担を減らすことはできると思います。たとえば、金属バットをやめて木製にするとか」と話した。具体的な案を、次回以降の会議で述べるという。【古川真弥】