アマチュア球界発展に貢献したい-。今季限りで現役を引退したイチロー氏(46=マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター)が13日、都内で行われた学生野球資格回復研修を受講した。プロ経験者が学生野球を指導するために義務付けられた研修で、15日まで行われる。通常、同資格の回復には所属球団を退団することが条件だが、イチロー氏は大リーグオフシーズンの期間限定で現職のまま指導できる特例措置となる見込み。初日の「NPBプロ研修会」には127人が出席した。

  ◇  ◇  ◇

講義がスタートする午後1時直前。紺色のスーツに身を包んだイチロー氏が教室に着席した。独特の緊張感の中、参加者は「学生野球とプロ野球の関係~プロアマの歴史・経緯」「新人獲得ルール・内容に関する説明」「高校生のからだの特性とケガ予防」「指導者の役割」の4講義を受講。発言する機会はなかったが、イチロー氏も熱心にペンを走らせていた。合間の小休憩には、愛工大名電の後輩らのあいさつも受けていたという。

発端は同研修の申込者の中に、鈴木一朗の名前があったことだ。申請書には「(学生野球の)役に立ちたい」と書かれていた。日本高野連の田名部和裕理事は「日本というより世界の宝ですから、学生野球の振興のためにお手伝いいただくのはいろんな意味でプラス」と熱意を歓迎。しかし従来の制度では、すぐにというわけにはいかなかった。

本年度から現職の監督、コーチ、選手、スタッフも研修を受講可能になったが、実際に資格を回復して学生を指導するには退団が条件。イチロー氏は来季もマリナーズに籍を置く。NPBの平田稔振興室長は「明らかに(アマ選手獲得の)スカウト活動をしていない。球団業務が常態化していない」の2点を挙げ、在職中でも指導が認められるよう日本学生野球協会と協議。球界への多大な貢献も考慮し、球団業務から離れるオフ期間に限り指導可能と、12月6日の同協会理事会で承認された。

今後は講習を修了し、来年2月7日の審査で同協会から承認されれば、翌日から高校生、大学生への指導が可能になる。特定の学校への常勤は難しいが、講習会やシンポジウムという形での“授業”は実現しそうだ。過去には殿堂入りしたプロ経験者の資格回復手続きが面談やリポート提出で簡素化された特例がある。今回のイチロー氏の運用措置をへて、今後ますます門戸が広がる可能性は大きい。最後の小テストを終えた午後5時半すぎ、レジェンドは裏口から静かに帰途に就いた。【鎌田良美】