BCリーグ新潟の元投手で、昨季限りで現役を引退した中西啓太氏(27)が新人球団職員として第2の人生をスタートさせている。

昨年12月11日付で総合営業部に配属。新規のスポンサー、後援会員獲得のため県内各地を回っている。通算37勝を挙げた5年間の現役生活では目標のNPB入りはならなかったが、投手陣の軸としてチームを支えてきた。これからは裏方としてバックアップしていく。

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「肩が凝りますね」と苦笑い。まだ慣れないスーツにネクタイ姿。今までなかった感覚に少しずつなじもうとしながら、中西氏は新しい仕事に取り組んでいる。配属された総合営業部ではスポンサーなどへのあいさつ回りのほか、自ら営業訪問のアポを取る。あいさつやキーになる言葉を書き出したメモを脇に電話をかけまくる。年明けには初めて1人で新規後援会員獲得のため訪問した。「(訪問の)前日は先発する前の日のような気持ちでした」。新鮮な緊張が毎日続く。

球団から勧められた営業職を前向きに受け入れた。「もともと引退したら少し野球から距離を置こうと思っていた。ビジネスマンとして勉強したかった」。新人時代からオフシーズンはコメリパワー長岡店でアルバイトをしていた。接客中に客に怒られることもあった。「お客さんにすれば自分が野球選手かどうか知らないし、関係もない」。野球とは違う世界を見ていたことは、気持ちの切り替えに役立った。

当初は地元の和歌山での就職も考えたが「縁があって新潟でチャンスをもらった。多くの方に応援もしていただいた。違った形で貢献していきたい」と言う。昨年2月、新潟出身の彩夫人(29)と結婚したことも大きかった。帝塚山大卒業時に社会人野球入りを希望したがかなわなかった。そんなときに声をかけてくれたのがBC新潟だった。「新潟が第2の故郷」という気持ちは強い。

昨季途中から「来季、ユニホームを着ているイメージがつかなくなっていた」と言う。昨季の成績は11勝9敗。147キロの速球と変化球の制球力を武器に、日本ハムに育成3位で指名された長谷川凌汰投手(24)と両輪を担った。27歳は投手陣最年長。まとめ役にもなった。長谷川ら若手の成長をうれしく思うと同時に、年齢的に夢だったNPB入りが遠のくことも実感した。「自分で(引退を)決められるのはありがたいこと。良い引き際」。やり尽くした感覚もあった。

チーム周辺の環境に身を置いてあらためて感じた。「こんなに多くの人に支えられているんだ、と」。フロントの業務、そこから見えるファンとのつながり。「自分の力だけで野球ができているわけではない。それを選手に伝えることも自分の使命」と自覚した。「新人営業マンだから、という言い訳はしたくない。野球と同じく結果がすべて。絶対に新規開拓してやるという気持ちで”シーズン”に臨む」。マウンドに立った時と同様の引き締まった表情で言った。【斎藤慎一郎】

◆中西啓太(なかにし・けいた)1992年(平4)4月23日生まれ、和歌山県出身。星林高から帝塚山大に進み、4年のときに阪神大学野球リーグで敢闘賞。15年、新潟入団。同年に防御率1・60で最優秀防御率に輝く。通算成績は128試合登板、37勝29敗4S、防御率3・46。184センチ、81キロ。右投げ右打ち。