「ルパン三世型」の1対1の対話で共感する部活動へ

  • 指導論を熱く語る松島中野球部の猿橋監督

<週末ベースボール:猿橋善宏教論に聞く>

2008年度に30万人いた中学軟式野球部員は、18年度は16万人台に減少。同年にスポーツ庁から発表された「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」以来、公立中学校で部活週休2日制は浸透している。部活動の環境が激変する中、軟式野球のカリスマ監督で、宮城・松島町立松島中の猿橋善宏(58)の思う「部活動とは」を聞いた。(敬称略)

「引き付けて逆方向に打つことを考えていたのか?」。とっぷりと日の暮れた松島中グラウンド。マシン打撃をする選手に、猿橋監督は穏やかに語りかける。肯定する選手に「ナイス!」と、ひと言を投げかけると、2人は同時に笑顔になった。

野球の経験はなくても、指導者として全国中学軟式野球大会(全中)に何度も出場するカリスマ監督だ。前回11日の週末ベースボールで「叱ることをやめた」指導法について書いた。練習を見ると、1人1人に話しかける光景が目立つ。見て、指摘する。そしてほめる。ここに、猿橋の流儀がある。

猿橋 大切なことはスモールステップをたくさん作って練習していったほうが絶対伸びる。小さいことを作っていくんです。グラブの向きだけを直す練習とか。一瞬かったるいようにみえるけど、こっちのほうが楽しいんですよね。子どもたちもね。テーマが絞られるから。こっちも声をかけやすい。「ナイス」って。このコミュニケーションはものすごく大事ですよね。「いいね」って言われたら、うれしいですよね。子どもがもうちょっとで出来ることをちゃんとプログラムとして持っていて、出来たことを一緒に「よかったな」って思えるという指導スタイルは、すごくジュニアにとって大事ですよ。

多人数を集め、号令をかける指導には否定的だ。

猿橋 もう刑務官型はムリですよ。「オラ、何やっているんだ貴様!」みたいな。それで全体を統制するなんて、しないほうがいいし、やったところで意味ないし。必ずどこかで破綻します。いままで、どうしても息苦しく感じるのは、ピラミッドを作って統制的、軍隊的だったからだと思うんですね。それをやめればいいだけの話。チームとしてフラットな形で、僕はそれを「ルパン三世型」と言っているんです。

ルパンはリーダーではあるけどボスではない。トップダウンで組織を動かさない。高いレベルの技を持つ五右ェ門や次元、峰不二子と、互いが足りないところを補完しあえる関係を作り、チームワークも抜群だ。

猿橋 そのために必要なのは、個人というものが磨き上げられていること。つまり、ある考えを持っているだったり、自分の特色をちゃんと捉えて、磨き上げることに余念がないこと、が大事。それがないと、ただのお遊び仲間になってしまう。そうじゃないように、お互いに磨き上げられるようなものを部活の中で作り上げられていけば、すごく楽しい場所に、楽しい=やりがいのあるものになると思います。

教師歴30年を超え、たどり着いた考えがある。それが「ワン・オン・ワン」だ。1人1人を見て、感じ、思いを伝える。

猿橋 ある程度の価値観、人間とはこういう生き物でこう生きていくのが正しいという価値観の共有が、社会全体でなくなりましたよね。だから、もうワン・オン・ワンしかないと思う。1対1の対話と親和的人間関係ですね。ワン・オン・ワンはすごい大事だと思いますよ。もちろん全体に対する問いかけやスピーチ力は大事だと思います。そのスピーチでさえ、やっぱりワン・オン・ワンなんですよね。指示ではないし、命令ではない。心を動かしていくこと。共感してもらうこと。「してもらうこと」だと思いますよ、僕は。共感させようと思ったら、嫌らしくなりますよ。

松島中は合宿をしない。県外遠征もしない。セカンドユニホームも作らない。経済的負担は極力抑える。それでも、子どもに「やりがい」があるから、試合に勝つチームができあがる。そこには、子どもと教師との喜びの共感があるはずだ。

◆猿橋善宏(さるはし・よしひろ)1961年(昭36)7月29日生まれ、宮城県出身。仙台二-東北学院大を経て中学英語教諭。学生時代に体が弱く、できなかった野球へのあこがれから指導者を志す。98年に松島中の監督として全中ベスト8。05年、しらかし台中を全中準優勝に導く。12年に松島中に戻り、16年に全中出場。