3年前の2017年5月25日、阪神鳥谷敬内野手(現ロッテ)がバットマンになった。前日の試合で顔面に死球を受け退場。鼻骨骨折と診断された一夜明け、バットマンのようなフェースガードを付け代打で出場。スタンドから大歓声が起こった。三ゴロに倒れたが不屈の男の連続試合出場は1795に伸びた。

【復刻記事】

不死鳥だ。前日24日に顔面に死球を受けて大流血した阪神鳥谷敬内野手(35)が6回に代打で強行出場。「鼻骨骨折」と診断されながら、黒のフェースガードを装着して奮闘した姿に甲子園は大歓声に包まれた。金本監督に先発を直訴していたファイターぶりに、打線も発奮して初回に4得点。鳥谷の不屈精神がチームを一丸にし、連敗を2で止めた。

顔面を黒く覆った背番号1がゆっくりと、左打席へ歩き出す。待ち切れない虎党が絶叫。割れんばかりの拍手が甲子園を覆う。「代打 鳥谷」。ウグイス嬢の美声はかき消されて聞こえない。5点リードの6回裏2死。鳥谷は少なくとも目元を見る限り、何食わぬ顔で直球に向かっていった。

鳥谷 (怖さは)もう全然なかった。ゲームはね。

右腕桜井の初球は外角高め149キロ。力強く右足を踏み込み、強振でファウルした。2球目145キロもファウル。1ボールを挟んで4球目、最後は外角高め148キロに食らいついた。当たり損ねの三ゴロにもかかわらず、聖地は再びごう音のような大歓声に包まれた。試合後は「(歓声に)申し訳ないですね」と照れ笑い。想像を絶する「勇気」が、見る者の心を打った。

前夜の巨人戦、左腕吉川光の直球が顔面に直撃した。鼻からの流血が止まらず、兵庫・尼崎市内の病院へ直行した。一夜明け、発表された診断は「鼻骨骨折」。2カ所が折れている重傷だった。この日も同病院で再診察を受け、練習開始時間より20分以上遅れて室内練習場へ。球団が前夜急きょ発注した、鼻とほお骨をカバーした黒い特注フェースガードを着用した。

「スタメンでもいけます!」

練習中、金本監督に直訴した。指揮官は「さすがに僕が止めました」と振り返る。ノックやフリー打撃などをこなし、回避メニューは左投手相手のフリー打撃だけ。報道陣から視界を問われると、「良好です」とウソぶいた。ハナから休む気はなかった。直接謝罪に訪れた吉川光には「気にしなくていいよ」と声をかけ、連続試合出場を1795に伸ばすことで心のつっかえを優しく外した。

まだ顔面は紫色に腫れ上がったまま。少しでも動けば、すぐに鼻から出血する状態だという。それでも「痛みはもう全然(ない)」と言い切る姿勢が、ナインに伝わらないはずがない。チームは初回に4得点の猛攻を決め、宿敵巨人相手の連敗を2で止めた。

金本監督は今日26日以降の出場については「様子を見ながらですね。あれだけ腫れがあると、こっちも怖い。また出血とか」と説明。「本人は出ると言っているけど。守ってやらないといけないところも正直、僕はあると思う」と続けた。当面は途中出場が続くかもしれない。それでも鳥谷は今、いるだけで虎に力を与えられる。

※記録、表記などは当時のもの。