満員ではなくとも、心は躍った。巨人戸郷翔征投手(20)が1085日ぶりの甲子園登板で、8回途中4安打1失点で4勝目を挙げた。自己最多の106球を投じ、初の2桁となる10奪三振。「初回、ちょっと緊張してるのかなと思った。でも楽しめたのでよかった」と球児のような笑顔を見せた。

初回、バックスクリーンの電光掲示板を、どこか懐かしそうに見つめた。聖心ウルスラ学園時代の17年夏、2年生エースとして甲子園に出場した。当時宿泊したのは大阪市内のホテル。2回戦で敗退するまで、ホテルの隣にあった中之島西公園でシャドーピッチングや素振りを繰り返した。あの時、小さな公園には球児の声が響き渡った。夏の甲子園が中止の今年は先輩たちと汗を流した“原点”に球児の声は聞こえない。照りつける日差しの下で響き渡るのはセミの鳴き声だけだろう。

甲子園初戦の早稲田佐賀戦前、小田原監督から言われた。「3年生のキャッチャーに任せて投げなさい」。先輩のリードを信じ2失点完投。同校初の甲子園1勝を手にした当時のように、この日も13歳上の大先輩炭谷の要求通りに阪神打線を封じた。

大阪桐蔭時代に甲子園春夏連覇を成し遂げた阪神藤浪に投げ勝ち、自身の連敗を2で止めた。原監督は「粘り強く放ってくれた。(甲子園は2年夏以来で)エネルギーに変えたんでしょう」。戸郷は「いつ立っても緊張するマウンドだった。もっと自分の力を発揮できるようにやっていきたい」。聖地での1勝を自信とし、さらなる勝ち星を目指す。【久永壮真】