「非合理性」が趣を生むヤンキースタジアム/コラム

ヤンキースタジアム記者席からライトスタンドを望む

 8月にヤンキースを取材した際、最初に佐藤芳記広報(39)からヤンキースタジアムについて説明を受けた。プレス席は、バックネット裏からやや三塁ベンチ寄りに設けてある。並んで腰掛け、話を聞いた。

 正面にライトスタンドが広がっている。09年から使用している球場は、旧スタジアムを忠実に再現しているという。「思ったよりも狭く感じないですか」。右翼314フィートは約95・7メートル。確かに圧迫感がある。一方でフェンスは低い。外野手もファンも、手を伸ばせばフェンス際の打球をもぎ取れる。

 右中間の真ん中、1ブロックほどは座席がなく、吹き抜けになっている。サウス・ブロンクス地区の住宅街と、サブウェイシリーズで有名な地下鉄4号線の往来が見える。吹き抜けの向かって右、ライトポール側は5階席で切り立っている。「旗を見て下さい」。

 5階席の上に旗があり、吹き抜けに向かって強くたなびいている。「風はあそこから抜けるんです。右中間への打球は例外なく伸びる。『ベーブ・ルースの庭』と呼ばれていましたが、打者、特に左バッターに有利な構造です」。ホームランはめったに出ないものでなく、当たり前で出るもの、という前提がある。

 日本の球場が狭いとは一概に言えない。狭いとされる東京ドームは両翼100メートル。フェンスの高さは4・24メートルもあり、選手とスタンドの距離を明確にしている。「右投手の防御率2点台は、極めて価値が高いとされています」。確かに97年のデビッド・コーンの2・82を最後に出ていない。

 「道路一本挟んで、旧スタジアムが残っていますよ。歩いてみたらどうですか。昼間に」と言われた。天然芝の草野球場が3面、確保されている。安価の申請でプレー可能だが、そもそも昼夜問わずに施錠されていない。仲良くキャッチボールの親子がいる。1人でティー打撃に打ち込む少年、試合を楽しむ壮年グループもいる。

 球場の周辺はかつて、非常に治安が悪かったという。駅前のマクドナルドは「天国に一番近い」と言われ、事件が絶えなかったという。のどかな旧スタジアム跡地の空気も一役買い、普通にしていれば危険も感じない。ただ現実として、周辺で流しのタクシーは拾えない。地下鉄も、ナイター後に子ども同士で乗るには少し抵抗がある。主な足はマイカーだが、駐車場は旧スタジアムを挟んだ向こう側にあり、車を止めてから15分ほど歩く。

 駐車場は球場の隣にあった方が便利だし、グラウンドの作り方にしても、もう少し投手の立場を考慮した方が自然だ。合理性を重んじるアメリカにあって、特にヤンキースタジアムは、建て替えたにもかかわらず非合理性を大切に保存している。グラブを持ってくるファンが圧倒的に多く、球場までのそぞろ歩きもみんな楽しそう。観戦に何らかの付加価値を与えるよう、意識して隙間を残しているように感じた。

 ヤンキース戦は、試合中の演出にも非合理性を感じる場面がある。(つづく)【宮下敬至】