阪神福留の一声でキャッチボール相手を交代/コラム

「挑む」の文字が映し出されたスコアボードをバックにキャッチボールするキャンベル(撮影・宮崎幸一)

<酒井俊作記者の旬なハナシ!(17) 春季キャンプ編>

 野球用語は、僕たちの日常生活にも深く浸透している。今日もどこかの会社で「全員野球で頑張ろう」と団結しただろうし、合コンで「あの子、ドストライクや」と息巻く男性諸氏もおられよう。今回はキャッチボールの話。「アイツと話してもキャッチボールできない」となれば、心穏やかではいられない。それほどに意思疎通は大事なのだ。

 今年から阪神の新しいキャプテンに就いた福留孝介が味わい深いリーダーシップを発揮した。午前10時40分の宜野座球場。キャッチボール直前、野手を前に口を開く。「試合では同じ人だけに投げることはないんだから…」。そう話した後、ナインはグラウンドに散った。するとどうだ。キャッチボールのパートナーが前日と大シャッフル。誰もが違う顔と向き合って球を投げた。例えば、新外国人キャンベルは1日が江越で、この日は今成と組んだ。

 普通なら同じパートナーとキャッチボールする。あまり見ることがない光景には、ワンプレーに執念を燃やす福留の意図が隠されていた。「そんな大したことじゃないよ」とサラリとしたものだが、続けて言う。

 「いつも同じメンバーでやっても球筋は分かるでしょ。昨日はトリ(鳥谷)としたんだけど、どんな球を投げるか、お互い分かっている。トリとも話して、若い子とやることで分かることもある。どういう球の回転をしているかとかね」

 肩は強いか。シュート回転していないか。仲間が投げる球の特徴を知るのは大切だろう。特に失点を防ぐ中継プレーは間一髪のタイミングがモノを言う。外野手からの返球がそれるかもしれない。カットマンの内野手が察知してポジション取りしていれば、走者を刺せる可能性は高まるからだ。久慈内野守備走塁コーチも「内野なら内野同士や、二遊間を組む相手とキャッチボールすることが多い。いいことだよね」と話す。

 福留は中日でプロ入り後の3年間は遊撃や三塁など内野でプレー。外野の名手は内野手の気持ちも知る。だから小学生でもするキャッチボールに心を尽くす。日米19年目たるゆえんだろう。「常に新しいことをやろうと思ってるよ」とサラリ。クールを装う情熱こそ、ベテラン主将の深みだ。

 ◆酒井俊作(さかい・しゅんさく)1979年(昭54)、鹿児島県生まれの京都市育ち。早大大学院から03年に入社し、阪神担当で2度の優勝を見届ける。広島担当3年間をへて再び虎番へ。昨年11月から遊軍。今年でプロ野球取材15年目に入る。趣味は韓流ドラマ、温泉巡り。

 ◆ツイッターのアカウントは@shunsakai89