楽天岸先生の128球授業 ドラ1藤平らが熱視線

後方左から池田、菅原、藤平の新人たちが見つめる中、ブルペンで投球する楽天岸(撮影・野上伸悟)

 「岸先生」による公開授業が、突然始まった。西武から楽天にFA移籍した岸孝之投手(32)が久米島春季キャンプ第1クール最終日の5日、ブルペンで128球を投じた。森山投手コーチの一声で、ドラフト1位の藤平尚真投手(18=横浜)、同2位池田隆英投手(22=創価大)ら新人選手が岸の投球練習を背後からチェック。球界を代表する右腕の背中から、飛躍のヒントが送られた。

 投球練習を始めた岸に、見つめていた森山投手コーチが「後ろで見させていいか?」と聞いた。岸は黙ってうなずいた。同コーチは、隣接する室内練習場にいる新人選手のもとへ向かった。「岸の投球を見たいか?」。打撃練習を始めようとしていた藤平は、打撃用手袋を握りしめたまま、移動した。後でブルペンに入る予定の池田は、キャッチボールの時間を遅らせることにした。同コーチに導かれ、岸の背後に回った。

 若手の熱視線を浴びても、岸は表情を変えない。“教壇”であるブルペンで精密機械ぶりを示した。まずは中腰の捕手を相手に116球。2球連続して、捕手の構えたミットからボールが外れることがない。バッテリーを組んだ塚田ブルペン捕手が「修正能力がすごすぎる」と、ため息をつくほどだ。さらに座った捕手を相手に12球。「80球くらいだと思っていた」と話すほど、キャンプ4度目のブルペンは状態が良かった。

 異次元の投球は、“生徒”たちの表情が物語っていた。岸の左斜め後ろにポジション取りした藤平は「本当は真後ろで見たかったんですが、与田コーチから『岸は繊細だから、物音一つ立てるんじゃないぞ』と言われて、動けませんでした」。だが、それ以上に投球にしびれた。「ボールをもらって、ワインドアップに移る動作、繰り返しに1個もズレがない。余分な動作がない。自分は30球中、10球もいかない」と、固唾(かたず)をのんで見つめた。池田も「自信を失った。あそこまでなるには、15年以上かかる」。それぞれ、自分に足りないモノを感じていた。

 「岸先生」は、投球練習を終えると「どうだった?」と藤平に問うた。「高めの球すごいですね」と憧れの交じった声を掛けられると、すぐさま「低めに投げられないだけだよ」と冗談でかわした。答えを求めようとする“生徒”の言葉を受け、簡単に指導することはなかった。決して多くは発しないが、目で見て感じてくれればいい。「もちろん聞かれたら、答えます。僕自身、新しいチームで学ぶことは多い」と言った。岸のFA加入の効果は、単に勝ち星だけじゃない。チーム、投手陣を活気づける「岸先生」としての役割も含まれる。【栗田尚樹】