ヤクルト28歳新人菊沢は遅い入団速い1秒クイック

初登板したフリー打撃で高速クイックを見せたヤクルト菊沢(撮影・斎藤直樹)

 変わり種投手が輝いた。ヤクルトのドラフト6位ルーキー菊沢竜佑投手(28=相双リテック)が12日、フリー打撃に初登板。打者2人に58球を投げ、安打性の当たりを3本と好投した。視察に訪れた他球団のスコアラーが、球界最速レベルの1秒02を出すなどクイック投法に驚きの声を上げた。オールドルーキーの注目度が一気に高まった。

 回り道を重ねた28年間が凝縮された投球だった。菊沢は最初の打者山崎を相手に、6球連続ファウルを打たせるなど、なかなか打撃ケージから打球を飛ばさせなかった。続く広岡からは、球種を教えて投げるフリー打撃では異例となる空振りを奪うなど、安打性は2本のみ。最速は138キロだったがシュート、スライダー、カーブ、フォークと全球種を使い「落ち着いて投げられた」と年下の先輩を翻弄(ほんろう)した。

 新人とは思えぬ貫禄があった。打者相手は昨年の「9月か10月」以来だが、これは軟式球。15年は米独立リーグでプレーし、日本で硬式球による打者相手はクラブチームに所属していた14年以来3年ぶり。初めて対戦したプロの打者には「単純にスイングが速い。振れている」と感じたものの「ブルペンより気持ちが入る」と立ち向かった。

 実戦、特に救援向きだ。ライバル球団の007を驚かせたクイック投法のタイムは、最速で驚異の1秒02。中日善村一仁スコアラーは「ヤクルトで一番速い。(球界最速といわれる)DeNAの久保ぐらい。全部の球種でストライクが入るし、やっかいかな」。広島井生崇光スコアラーも「走者だけでなく打者も差し込まれる。プロでもトップクラス」と絶賛した。

 超高速クイックは米国で開発した。パワーのある打者に「真っすぐだけでは抑えられない。1つの武器になるし自分の助けになる」と着手。動画を撮影してもらい「体重移動の時間がもったいない」と、あらかじめ右足に体重を乗せておく方法を自己流で発見した。最速で1秒を切るタイムが出るようになった。

 首脳陣へのアピールにも成功した。真中監督は「プロに入るのは遅かったけど、経験はいろいろしている。実戦向きのイメージ」と高評価を与えた。5月に29歳になるオールドルーキーは「敗戦処理でもいい」と、意地でも1軍にしがみつく覚悟だ。【斎藤直樹】

 ◆久保(DeNA)のクイック 1・2秒以内ならば合格といわれるクイックだが、久保は1秒を切る。通常は0・9秒台で、0・8秒台の超高速クイックを使うケースもある。久保はプロ12年間で許した盗塁が25個しかなく、10年からは毎年2個以下。122回1/3を投げた15年は許盗塁0、盗塁刺0と、久保登板時に相手チームが1度も盗塁を仕掛けてこなかった。

<菊沢竜佑(きくさわ・りゅうすけ)アラカルト>

 ◆生まれ 1988年(昭63)5月16日。同世代はヤンキース田中将大、ドジャース前田ら。秋田県出身。

 ◆経歴 秋田高から立大に入学も3年秋に右肘手術。卒業後は山崎製パンに就職。1年後に横浜金港クラブで野球を再開。巨人の入団テストに合格も指名漏れし、15年に米独立リーグのソノマ・ストンパーズ入り。同年12月に軟式野球の強豪、相双リテックに入社。活躍が目に留まる。

 ◆サイズ 183センチ、85キロ。

 ◆投打 右投げ右打ち。

 ◆血液型 A。

 ◆お金 契約金1000万、年俸600万円(推定)。