<酒井俊作記者の旬なハナシ!(38)>
京扇子を作るのに、実に88の工程があるという。そのなかで「要打ち」という作業がある。穴に金属を通して扇骨(せんこつ)を束ねる。ここに狂いが出ると美しい扇子に仕上がらないし、開閉もうまくいかない。扇骨を束ねるところは「目」ともいわれる。野球で捕手は「扇の要」とは、よく言ったもの。フィールドで1人だけ、8人と向き合う形で守っているのだ。
捕手は「目」だ。開幕マスクを託される梅野隆太郎は先日、そのことを強く実感した。WBC準決勝のテレビ中継を見ていた時だ。プエルトリコの正捕手モリーナが1回、右前打で好機を拡大した打者が一塁を回ったところで興奮して帰塁しないのを見るや、本塁から送球してアウトにした。
冷静に戦況を見渡しているからこそ、可能なプレーだった。梅野も「珍しいですよね。なかなかないプレー。普通は打たれてああ~ってなるところ」と感心する。延長10回には、内角攻めに激怒するバレンティンをなだめ、見逃し三振に抑えると、喜ぶよりも、真っ先に身を寄せて乱闘を防いだ。オランダ戦勝利は試合をコントロールする司令塔の存在感が際立っていた。
プロ4年目は試行錯誤しつつ前に進む。3月中旬、作戦兼バッテリーコーチの矢野燿大が「成長」を感じた光景があった。19日ヤクルト戦(神宮)で能見と2年ぶりの先発コンビを組んだ。1回裏、1点を失い、なおも2死一、三塁。荒木にカウント1-2だった。梅野が選択したのは内角直球系。懐を突き、遊飛に抑えた。矢野は、振り返る。
「荒木を追い込み『能見=フォーク』のイメージがある。荒木も完全フォーク待ちで、どん詰まりのショートフライ。配球の意図が見えるようになってきた」
3回の畠山は3球連続直球の後のチェンジアップにバットが動かず、見逃し三振。フォークの残像を生かし、裏をかく。この日は6つの見逃し三振。梅野も「自分でもフォークだろうと思うような場面でいろんな球種を使う。いろんな、つながりのなかで見逃し三振を取れている」と話した。
それでも、矢野は「見逃し三振は捕手も気持ちいいもの。相手の裏をかいてるからね。でも、ずっと続けていると…。裏は表にもなる」と戒める。一瞬の油断が命取りになるポジション。梅野は試合中、ベンチで配球面の気づいたことをノートに書きとめている。肝心要の自覚だろう。さあ、開幕だ。縁起物の京扇子のように末広がりといきたい。