楽天高梨、ドラフト9位“哲学者”が新人一番星

プロ初勝利を挙げウイニングボールを手に梨田監督(右)に祝福される楽天高梨(撮影・野上伸悟)

<楽天3-1ソフトバンク>◇6日◇Koboパーク宮城

 「デカルト思考」の知性派左腕が、12球団の新人1番星を手にした。楽天ドラフト9位の高梨雄平投手(24=JX-ENEOS)が、1点リードの5回から登板。1イニングを2安打無失点に抑え、プロ3試合目で初勝利を挙げた。哲学者デカルトの書籍を読み、早大時代に投球イップスを克服した経験を持つ。チームの開幕2カード連続の勝ち越しに貢献した。

 冷静さを失った。オッシャーとほえ、左手で右手のグラブを思いっきりたたいた。1点リードの5回2死一、三塁、打者は柳田。カウント2-2から、真ん中低めスライダーで二ゴロに片付け、興奮冷めやらぬ状態で三塁側ベンチに退いた。「柳田さんでしたし、1点もやれない状況。声は勝手に出ました」と無我夢中だった。

 日本ハム宮西、巨人森福の動画を研究して現在の投法にたどり着いた。左打者を封じるため、昨年途中にスリークオーターからサイドハンドに変えた。さらに打者との駆け引きも巧みだ。「打ち気なのかどうか」。相手の動作を見極め、右足の上げ幅やモーションを早めたりしている。1球ごとにコンマ何秒の世界をアレンジする策略家。見事に左の強打者を打ち取った。最後はベンチで松井裕を見守った。「松井(裕)がセーブを挙げて、ボールをもらって俺か? っていう感じで」と、プロ3戦目で待望の白星をつかんだ。

 あの頃を考えれば、今の姿は想像もつかなかった。早大3年春のリーグ戦で、東大相手に東京6大学史上3人目となる完全試合を達成した。歓喜の後、悲劇は突然訪れた。「いきなりです。イップスになって。18・44メートルがめちゃくちゃ遠く感じた」。投球練習をする度、ホームプレート手前でワンバウンドする。「ストライクゾーンが分からなくなった」とまで感じた。埼玉の進学校・川越東出身の知性派は、フランスの哲学者・デカルトの書籍を手に取った。

 何冊も読み進めると、1つの考えにたどり着いた。「いい時もあれば、悪い時もある」。聞いたことがあった。禅の思想-。「日々是好日」。「哲学書なんですけど、禅の思想でもあって。スッと入ってきました。こういう時期もある。いつか大丈夫だから」と言い聞かせた。いつの間にか、ストライクゾーンも鮮明に見えた。昨年5月、社会人野球の試合で東北にいた。Koboパーク宮城で偶然に見た楽天の試合で、大学の後輩・茂木がお立ち台に上がっていた。それから1年未満。「まさか自分が…。こんなに早く勝ちが付くと思っていなかった」。“いい時”をかみしめた。【栗田尚樹】

 ◆高梨雄平(たかなし・ゆうへい)1992年(平4)7月13日、埼玉県川越市出身。川越東から進んだ早大では東京6大学史上3人目の完全試合を達成。JX-ENEOSを経て16年にドラフト9位で入団。開幕1軍入りし、4月2日オリックス戦でプロ初登板。今季年俸は800万円(推定)。175センチ、81キロ。左投げ左打ち。

 ◆ルネ・デカルト フランス出身の哲学者、数学者でもある。17世紀に活躍し「近代哲学の父」と言われる。「私が存在するという証拠は、私が今存在する理由を考えているから」という意味の「我思う、ゆえに我あり」は有名な考え方。