首位をひた走る好調楽天イーグルスを陰ながら支える青年指揮官がいる。12球団最年少、就任2年目の平石洋介2軍監督(36)だ。若さを生かし、選手や1軍、球団と小まめな意思疎通を行って、チームの底上げに一役買っている。球団初の生え抜き監督だが、現役でプレーしたのはわずか7年間。現役時代の苦闘からつかんだ糧を未来ある若手に教え込み、常勝軍団の礎を築こうとしている。【取材・構成=高橋洋平】
熱血青年指揮官だからこそ、できることがある。就任2年目の平石監督はぶれることなく、信念を貫いてきた。
平石監督 選手との距離を置こうとは思わない。本音で付き合わないと。僕が若いからこそ、時には一緒に汗をかいたり、時には食事に行ったりする。選手の本心を分かる監督になりたいよね。
7年間で終わった現役生活をバックボーンに、平石監督は一貫した指導方針を築き上げていた。
平石監督 僕は苦い経験しかしていない。今思えば良くも悪くも、いい経験だけが自分に生きてくるわけじゃない。指導者の第1は「選手を迷わせたら駄目」。選手は試合で結果が出なくて迷うことはいっぱいある。そんな中で「こうでないと」と型にはめて、選手の芽を摘んでしまったら駄目だと思う。選手1人1人の人生を、僕らは預かっている。
現役時代を回想した。数字が出ない自分に焦り、コーチの助言通りに打撃フォームを改造し、深みにはまったこともあった。
平石監督 今思えば後悔している。自分の頭の中で整理できず、ただ単にフォーム改造を繰り返してしまった時期はあったので。
自身の苦い経験を元に、助言は最小限にとどめている。
平石監督 良いところを持っているからこそ入団してきたのであって、その良さを消してしまっては駄目。ただ、今まで通りやったとしても、この世界で食っていけるのは一握り。それは難しい。毎年あれだけ入ってきて辞める世界。それをこちら側の一方通行で「こうせなあかん」とかやってしまうと、僕らの自己満足になってしまう。
かける助言はお互いの意思疎通があった上で行われる。年齢の近い良き兄貴分だからこそ、選手と積極的に対話を続けて助言を紡ぎ出す。
平石監督 フォームの見た目が良くなっても、本人が納得してなかったら、いい方向にいくわけがない。修正ポイントは極力、簡潔にと考えている。選手が持った疑問点に答えられるように、教える側も多くの引き出しを準備する必要がある。
1軍で活躍できる選手を送り込むのが仕事だ。現役時代に苦労した平石監督だからこそ、選手にかけられる言葉がある。
平石監督 自分はこの世界で芽が出なかった側の人間。少ないチャンスで結果を残さないといけなかった。だからといって「打てへんな」「また2軍かな」って思ってしまってもあかん。そんなことを気にしてやってても駄目なんです。
プロで生きていくには、重圧の中で結果を出し続けるしかない。平石監督はメンタル面の重要性を説く。
平石監督 2軍でやってきたことをまず、勇気を持って1軍でやるしかない。1軍に上がりました、はい、よそ行きの野球やります、そんなアホみたいなことないでしょ。結果は自分1人で変えられない。だからまず、やってきたことに自信を持って、勇気を持って思いっきり出してほしい。結果ばっかりを追い求めたら、絶対に縮こまってしまう。そんな状況で1軍定着はなかなか難しい。いい意味で、1軍で開き直れるかどうか。そこに気付いたのは、選手を辞める直前ぐらいだった。
1年でも長く現役を続けて欲しいからこその言葉だった。
平石監督 自分と同じような経験をする選手がほとんど。結果を欲しがり過ぎて小さくなってしまい、自分を見失ってしまうとか。それが続くとチャンスすらなくなってしまうけど、そこから学ぶものもあると思う。悔いは残ると思うけど、その悔いを減らして欲しい。それを乗り越えて、1軍で結果を残してくれると、うれしいですね。
◆平石洋介(ひらいし・ようすけ)1980年(昭55)4月23日、大分県生まれ。PL学園では3年時に主将を務め、松坂大輔(現ソフトバンク)擁する横浜と延長17回の死闘を繰り広げた。同志社大へ進学し、03年にトヨタ自動車入社。04年ドラフト7巡目指名され楽天入りし、11年に現役引退した。通算で122試合に出場し37安打、打率2割1分5厘。12年から育成コーチ(野手担当)、2軍外野守備走塁コーチなどを歴任し、15年10月から2軍監督に就任。175センチ、75キロ。左投げ左打ち。
2軍監督の1日は長い。通常、ファームの試合はデーゲームで行われる。ホーム開催で午後1時開始の場合は、朝8時から球場入りする。2軍戦の指揮を執るだけでは、仕事は終わらない。午後6時からは送り出した2軍選手の状態確認をするため、1軍の試合もチェックする。明日に備えて就寝していても入れ替えの相談の電話がくるため、気の抜けない日々を送る。
◆楽天平石2軍監督の1日の仕事の流れ
▼午前6時 起床
▼午前8時 ホーム開催の場合は球場へ行き、練習の準備に入る
▼午前9時 全体練習で選手の状態、調子を把握
▼午後1時 2軍の試合開始
▼午後5時 試合が終わり、個人練習のチェック。同時に当日の総括リポートを1軍と球団に送信
▼午後6時 1軍の試合をチェック。2軍から送り出した選手を継続的に見守る
▼午後10時 1軍の試合終了後、入れ替えがある場合は1軍から電話がある。コーチ間との相談があり、メンバーを決定する
▼深夜0時 就寝