筒香やっと1号 重心ずれも相棒こん棒バットで活路

5回表DeNA2死、筒香は藤浪(手前)から中越え1号本塁打を放つ(撮影・宮崎幸一)

<阪神5-2DeNA>◇27日◇甲子園

 眠れる主砲が、ついに目覚めた! DeNA筒香嘉智外野手(25)が、今季初アーチを放った。侍ジャパンでワールド・ベースボール・クラシック(WBC)をともに戦い、昨季9打席無安打だった阪神藤浪から、バックスクリーン右に突き刺す弾丸ライナーを放った。試合には敗れ、空砲となったが、待望の1号。練習用バットでは異例となる「アイピーセレクト社」とパートナー契約を、4月に結んだ。サポートを受けたバットで鍛錬を積み、筒香らしさ全開の時も近い。

 92打席目の筒香が、ついに目覚めた。3点ビハインドの5回2死走者なし。カウント2-2から藤浪の5球目を弾丸ライナーの軌道でバックスクリーン右まで運んだ。投げた藤浪も驚きの表情で見つめる規格外の弾道が、今季1号だった。3回にも1死一、三塁で中前へ運んで1点を返しており、2打席連続の打点。ただし試合は敗れ、待望の1発にも「勝つことがすべて、自分はどうでもいい。打っても負けたら意味がない」と笑顔はない。

 侍ジャパンの4番としてWBCに出場し、迎えた開幕。昨季の本塁打、打点の打撃2冠として期待を受け、不発が続いた。メディアやOBも含め、異変を指摘する多くの声。しかし心は揺るがなかった。「僕は趣旨がずれているものは受け入れない。だけど、そうでなければ受け入れる。でも、基本的には自分の感覚ですよ。自分の体のことは自分にしか分かりませんからね」。慌てる必要も、そんな瞬間もなかった。

 開幕から約1カ月。体の変化には気づいていた。「重心の位置が分からなくなった」。重心を意識して体重移動しながらバットを振る一連の動作ができなくなっていた。グラウンドを離れても体の重心を意識した。「ずれていればすぐに分かる。自分の体のことですから」。常に自分の体と相談し、過ごした。不発が続いた4月中旬のヤクルト戦以降、ひそかにバットを昨季のモデルに戻した。後退を嫌い前進だけに強いこだわりを持つ男が、ほんの少し後ろを振り返った。でも進化は止めない。

 筒香が使用するグラブメーカー「アイピーセレクト社」と、プロ野球選手としては異例となる「練習バット契約」を結んだ。刀を意味する「エスパーダ」という名の重さ1200グラムの“こん棒バット”は昨オフから導入したもの。昨季から使っている65センチのショートバットとの2本は、バランスを重視する筒香のそばに、常にあった。この試合も次打者席でこん棒バットを何度も振り、初アーチを放った。「ずっと使っているものですから」とパートナー契約が決まり、サポートを受け量産態勢に入る。

 「勝つためにやっている。きた球を打つだけ」。喜びの顔は、勝ったときにとっておく。【栗田成芳】