岸2勝で楽天20勝、試合前ブルペンに勝てるゆえん

1回裏、西武ナインが見つめる中で投球する楽天岸(撮影・鈴木みどり)

<西武2-3楽天>◇7日◇メットライフドーム

 古巣を封じて球団史上初のリーグ最速20勝に到達した。西武から楽天にFA移籍した岸孝之投手(32)が、昨季までのチームメートを7回2失点に抑え2勝目。チームに今季最多の貯金13と節目の勝利をもたらした。乾いたブーイングが飛び交う中でも動じずに本来の力を発揮。頼れるエースが、憎きエースとして立ちはだかった。

 陣取るベンチが一塁側に変わった。エースの特権である自分仕様のマウンドも変わった。頼もしかった仲間は「嫌だな、という打線」に変わった。岸は何も変わらなかった。絶滅危惧種となった美しいワインドアップで「リズム良く投げられた」。7回2失点で楽天に今季20勝目を運んだ。

 西武との初対戦。「楽しみな部分があった」と表現した。中村は特に力が入った。「真剣勝負ができる。思いっきり投げた」。7回1死で出た最速の149キロをバックスクリーン左へ放り込まれた。チームを勝たせる自信のある者にしか、本能のままに力勝負を楽しむ領域は許されない。「2回と7回。ランナーを出してから粘れた」と、セットポジションでの投球をポイントに挙げた。

 ゲーム直前のブルペンに、岸が勝てる投手たるゆえんが詰まっていた。

 調整の序盤から打席に入ってもらい、セットでのカーブ、チェンジアップを徹底的に確認。「良かった」と認めた内角直球の精度も極限まで高めた。その上で、最後にワインドアップで仕上げて試合に入った。普通の投手とは逆の手順を踏んで、走者は出そうとも点は許さない備えを万全にした。中村、メヒアに連打され無死一、二塁となった2回。同じく中村、メヒアに連続本塁打された後の7回。「全体的に浮いてしまった」と辛く自己評価したチェンジアップをしぶとく外角へ集め、後続を断った。

 岸が変わらずにいられたのは、楽天ファンのおかげだ。ブルペンがスタンドに隣接する独特な球場。息をのんで繊細な仕上げを見守り、総立ちで送り出すという、昨年までと同じ雰囲気をつくってくれた。ひな壇のないヒーローインタビュー。振り返って「楽しんで投げた分、いい結果になった。声援、ありがとうございました」と頭を下げた。クリムゾンレッドの中に「岸孝之」のボードを掲げる青いユニホームが交じっていた。寂しくて泣いている人も。敵地となった空間を「多少、やりづらさもあった」と明かした岸。西武の難敵に変わり、楽天の柱に変わった。【宮下敬至】

 ▼楽天が球団史上初の両リーグ20勝一番乗り。開幕27試合目で20勝到達は09年の33試合を抜いて球団最速となり、パ・リーグで27試合目以内に20勝したのは05年ロッテ以来、12年ぶり。これで日曜の楽天は今季6勝0敗で、両リーグで楽天だけが日曜に全勝。楽天は土曜も5勝1敗と強く、土、日曜だけで11勝1敗、貯金10を稼いでいる。