阪神好調支えるメッセ「木、金」固定ローテ/コラム

阪神メッセンジャー

<酒井俊作記者の旬なハナシ!>

 市民ランナー顔負けのジョガーぶりが日本に来て8年間、第一線で活躍できる秘訣(ひけつ)だった。好きなランニングコースは東京・皇居外周だという。信号で足止めされることもない、約5キロの道中だ。阪神メッセンジャーは「ペースメーカーをしてくれたり、追いつこうとしたりする」とおどける。出勤前のビジネスマンやOLらに溶け込む。先発登板翌日は街に飛び出し、1時間ほど走るロードワークを欠かさない。

 本題に入る。2週間前の負け戦にこそ、この助っ人の存在感が光った。1日、千葉・幕張の夜だ。ロッテ戦に先発し、制球を乱して1回に3点を失う。打線も沈黙し、敗色濃厚の展開になった。それでも、淡々と投げ続けた。7回4失点で降板。8回こそ伊藤和に継投したが、負け試合を2投手でまかなった。メッセンジャーの投球数は、実に135球。香田投手コーチは「あそこで投げてくれると非常に助かる。本来は金曜日とか、カード頭がいいんだけどね」と振り返った。

 香田が感謝するのは、過労気味の救援陣を温存できたからだ。負け試合に多くの投手を投入したくない。実は、今年の先発ローテーションには大きな変化がある。香田が指摘する「あそこ」とは木曜日のこと。開幕以降、メッセンジャーの登板日が週半ばから動かないのだ。例年なら登板間隔を中4、5日で詰めていく。昨季は5月中旬以降、週半ばの登板がなくなった。15年にいたっては、9月まで木曜日登板が1度もない。今年は6連戦の中盤にあたる木曜日か金曜日に固定。完投能力の高い助っ人が週半ばに投げることで、日々準備する救援陣の「ひと休み」に一役買っている。

 開幕前、首脳陣が描いた構想はメッセンジャーのフル回転だった。しかし、安定感抜群の秋山を6連戦初戦に計算できるようになったほか、先発陣の頭数も整い、登板日がいまのように落ち着いた。週末の3連戦は、比較的、余力を残した救援陣を積極的につぎ込めるのだ。勝っていても負けていても力投するメッセンジャーの存在あってこそ。ある意味「世界でもっとも投げる米国人」と言ってもいい。その背景には、米球界の慣習にとらわれなかった柔軟な考え方がある。

 それは、投球数へのとらえ方に表れている。1日は135球、8日オリックス戦も124球だった。同日の大リーグを見てみよう。全試合の先発投手で最多投球数は以下の通りだ。

 1日 オリオールズ・マイリー 109球

 8日 マーリンズ・ボルケス 111球

 メジャーでは先発は100球前後が交代の目安になる。登板間隔が短いとはいえ、米国の先発とは「そういうもの」なのだ。大リーグ公式サイトでも「ピッチ・スマート」のページを設け、小学生から大学生まで、球数制限と休養期間を示したガイドラインを細かく紹介している。そういうベースボール文化と一線を画す“常識”外れの多投ぶりなのだが、さらりと言う。

 「日本にリリーフで来て先発に変わったというのが(固定観念がなく)大きいかな。球数が増えても驚きじゃないよ。日本の投手がそうやっているのを見ているしね。いろんな意見があるけど球数が増えれば、しっかり時間をかけてケアすれば大丈夫。球数が増えれば、メンテナンスの量も増やす。シンプルだろ」

 練習では、特製のゴムチューブを肌身離さない。日々のキャッチボール前に肩や肘を入念にストレッチする。「チームのチューブは弱すぎるんだよ」と笑う。そして、ルーティンのランニングだ。真夏の炎天下、兵庫・西宮市内の路上で汗だくのヘロヘロになりながらも走る姿も目撃されている。ランディ、なぜ、そんなになって走るんだい?

 「球場で20分くらいスローペースで走る選手もいるけど、あれだけじゃ(疲労物質の)乳酸は抜けないんだ。だから、外に走りに行く。20分、走りに出かけたら、同じ時間かけて帰ってこないといけないだろう」

 球史に名を刻む外国人投手のプロ意識である。(敬称略)【酒井俊作】