巨人吉川光夫1勝「竜馬がゆく」読み挑戦と集中

阪神対巨人 移籍後初勝利を挙げた吉川光(右)と握手を交わす高橋監督(撮影・清水貴仁)

 巨人の新しい“光”が、Aクラスに押し上げた。

 吉川光夫投手(29)が阪神21回戦(甲子園)で6月7日以来の先発。6回8安打無失点で、昨オフの日本ハムから移籍後初勝利を手にした。DeNAが広島に敗れたため、球団ワースト記録を更新する13連敗のどん底を見たチームが、5月29日以来の3位浮上を決めた。13連敗を喫したシーズンでAクラスに入れば、プロ野球史上初。11年連続のCS進出が懸かる終盤戦に、頼れる12年のパ・リーグMVP左腕が加わった。

 真っ黒に日焼けした吉川光が、眼光鋭く阪神打線をにらんだ。歯を食いしばって左腕を振り、直球を内角に差し込み続けた。「ストライクゾーンで勝負する」と6回を無失点に抑え込んだ。上半身のコンディション不良から7月1日に出場選手登録を外れ、孤独なリハビリ生活の末につかんだ先発マウンド。移籍初勝利が3位浮上につながる事実は知っていた。何が何でも結果を出したかった。

 歴史的屈辱を招いてしまった悔しさを忘れたことはない。前回の先発は、球団ワーストの12連敗を記録した6月7日の西武戦。5安打2失点で4回途中降板し、試合後は言葉をなくした。「今までのイメージを変えられる。新たな自分を見てもらえる」と挑んだ新天地1年目。1軍からも外れ、挫折の日々を味わった。

 苦境の中でも、反攻のイメージは常に頭の中に存在した。登板前のルーティンはiPadで活字を読むこと。文字を追いかけ、物語に入り込み集中力を高める。歴史物を好み、司馬遼太郎の「竜馬がゆく」は全巻読破した。「坂本龍馬は、誰もやったことがない新しいことに挑戦する。面白いなと思って読みました」。チームが下位に沈む間も、CSへの挑戦を疑ったことはない。黙々とジャイアンツ球場で走り込み、リベンジの機会に備えていた。

 痛打の原因だった直球のシュート回転を徹底的に修正。山なりのキャッチボールで手首より肘が先に出る投球を体に染みこませた。敵地甲子園では次々とストライクを奪い、初勝利でチームを3位に押し上げた。「後半戦の大事な時期にチームが勝てたのがよかった」と申し訳なさそうにウイニングボールを手にした。

 左腕の力投で11年連続のCS進出に光が差し込んできた。高橋監督は「とりあえず、何とかそこ(3位)に追いつけ追い越せと来ましたけど、今日で結果が決まるわけじゃない」と引き締める。歴史的連敗も反発力に変えて、不可能を可能に塗り替える。【松本岳志】

 ▼巨人が5月29日以来の3位に復帰した。5月25日阪神戦から6月8日西武戦まで13連敗を喫しながら、連敗脱出後に42勝28敗2分けと挽回。シーズン13連敗以上を記録したのは今季の巨人、ヤクルトを含め延べ22チームあるが、過去に3位以内で終えた例は1度もなく、巨人が初めてジンクスを破れるか。