情を捨てた緒方監督 連覇へ重圧背負った孤独な1年

リーグを連覇しナインに胴上げされる広島緒方監督(撮影・たえ見朱実)

 カープ時代の到来じゃ~! 広島が優勝マジック1で迎えた18日の阪神24回戦(甲子園)に3-2で競り勝ち、2年連続8度目のセ・リーグ制覇を果たした。就任3年目の緒方孝市監督(48)は11度、宙を舞った。広島のリーグ連覇は古葉監督時代の79、80年以来37年ぶり。鈴木、田中、菊池、丸だけでなく、投手陣も20代が主力となったチームは黄金時代を迎えつつある。10月18日から始まるクライマックスシリーズのファイナルステージに出場し、33年ぶりとなる日本一へ挑む。

 ゲームセットの瞬間、緒方監督は緑色のタオルで目頭を押さえた。サングラスを掛けていたのは涙を隠すため。歓喜の輪では西日に照らされ、最高の選手に持ち上げられた。甲子園のマウンドで11度も舞い「ご苦労さん! お疲れさん! 頼もしいやつらだ、本当に」と叫んだ。メディアに出る時間があれば、明日の試合に勝つために過ごした1年。「選手が求める野球をしてくれた。本当に成長を感じた」。涙同様、心根の優しさがあふれ出した。

 目線を下げた昨季とは一転、今季は指揮官であることにこだわった。仲良し軍団では勝てない。「一番邪魔なものは情なんよ」。始発を使う移動ですら、スタッフをそばに付けない。生きるか、死ぬかの世界で、選手を駒として扱えるか。後ろに透けて見える家族から目を切るように、孤独の道を進んだ。嫌われようと「決めたことはやる」。徹する強さと信念があった。

 頑固一徹、言い訳なしの九州男児。非情でも勝ち続けるために最善の方法を選んだ。当時22歳の鈴木を4番に据え、新井に守備固めを命じたこともある。勝つために自分の目を信じた。同時に、信じるに値する目を養うため勉強も重ねた。試合後には1回からの全球を見直した。パ・リーグを含めた12球団の全試合、全イニングも、欠かさず見た。勝負勘を磨き、特徴をたたき込んだ。「じゃないと相手の監督と戦えるか」と目に力を込めて言う。

 ベンチでは全員の顔が見える場所に座る。どんな顔を、準備をしているか。道具の置き方や腰掛ける深さを見る。「あいさつでも分かるよ」と状態を読み取る。選手との距離を保ち、声を掛けるのはユニホームを着ているときだけ。それも技術的な話はない。指導者としての信念は「選手は勝手に成長する。いかに正しい道で最短で導いてあげられるか」ときっぱり言う。

 選手にいかに考えさせ、自分で歩いていけるように伝えるか。「手取り足取りでは成長がない。肝心なところで力を発揮できない。まぐれじゃダメなんよ」。それが昨季の反省だ。鈴木や田中を監督室に呼び、凡退後の態度を叱ったこともある。寄り添う指導は信頼を置くコーチ陣に任せた。「パフォーマンス」と真顔で振り返った4月の初の退場劇など、タクトにメッセージを込めた。

 何かを感じようとパワースポットを巡り、家庭では野球を始めた長男の成長に目を見張る。でも24時間が野球。「野球界で監督まで出来る幸運。頭を野球から離す必要がない」。すべてを仏教でいう「行」とし、日常生活でも頭を回転させた。「年取って寝れんくなっただけ」と言うが睡眠時間は5時間を切り、決まって飲む青汁だけが健康のアイテムとなった。気分転換のランニングからも遠のき、たばこの量だけが増えた。孤独と重圧にむしばまれ、体はボロボロだった。

 選手は成長し、チームはひとつになった。「勝たせてやりたい」と指揮官の方が励まされていた。最後の最後まで主役は選手と言う。「俺はまだ勉強、成長の途中。もっと成長するための1歩を探していかないと」。満足も完成もない。緒方孝市の旅はまだ続く。【池本泰尚】