黒田イズム継承、広島新井が思う「強いチーム」とは

優勝の瞬間、大喜びでマウンドに向かった新井(後方左から2人目)は、突進してきたナインにびっくり(撮影・河南真一)

 広島のチーム最年長の新井貴浩内野手(40)が、9回に代打で登場すると甲子園は大歓声に包まれた。結果は投ゴロだったが、昨季引退した黒田博樹氏(42)に代わる精神的支柱として、2連覇へと導いた。地元優勝は果たせなかったが、08~14年まで7年間お世話になった阪神の本拠地・甲子園で至福の時を過ごした。

 最高の40歳が、最高の笑顔で歓喜の輪の中心にいた。胴上げ投手の中崎に最初に飛びついたのは新井だった。「うれしいです。甲子園は思い出がたくさんつまった場所」と笑った。出場機会も減り難しい立場となったが献身を貫いた。数年先の広島を見つめて「カープが好きじゃけえ。自分が出ても出んくても、勝てばいい」と言える。

 逆らいようのない回復力の低下を技術でカバーした。「ちょっとだけど、技術的に上がっているかなと思うことはある。反応の仕方。飛距離も自分で驚くこともある」。打席では集中力がピークになると、もう1人の新井が声を掛けてくる。「『慌てちゃいけんよ』とか『前に出されるな』とかね」と明かす。仲間の必死のプレーに気持ちを上げ、打席に立つ。その日一番の大歓声を浴び、雰囲気を変える存在は健在だった。

 「積み上げたものぶっ壊して-」

 新井が打席に向かう登場曲はスキマスイッチの「全力少年」だ。15年に広島に戻った時、当時中日の小笠原(現2軍監督)から譲り受けたものだ。今季は黒田氏からの「球場の雰囲気を変えられる。ロンゴリアみたいな選手になれよ」との思いを受け、メジャーリーガーの同選手が使用する登場曲に変えた。だが8月には「やっぱり全力少年が合ってるな」と元に戻した。

 黒田イズムも感じた1年だった。強いチームとは何か。「ミスをカバーしてやろうと思わせられるような野手になってほしい。それは日頃からの取り組む姿勢、言動。投手は逆。それが野手の球際の強さになる。チームメートだからね」。かつて黒田氏と語った理想のチームが、目の前にある。「連覇は難しかった。今年も優勝を経験させていただけてよかったです」。何より真っ赤なスタンドとの万歳三唱に、感謝の目を向けた。【池本泰尚】