初戦黒星の楽天が突破率8・7%の壁を攻略したワケ

8回表楽天2死一塁、枡田の2点本塁打で大喜びする楽天ナインと梨田監督(撮影・松本俊)

 楽天が、クライマックスシリーズ(CS)ファーストステージ第3戦(メットライフドーム)で西武を下し、ファイナルステージに進出した。来季も続投の方針が固まっている梨田昌孝監督(64)が、1点リードの6回にシーズンわずか5試合登板の宋家豪(ソン・チャーホウ)を3番手で投入するなど、超攻撃的な継投で試合を支配した。日本一になった13年以来のファイナルステージで、公式戦3位からの下克上を演じてみせる。

 梨田監督が、ベンチを立ち上がった。迷いはない。球審に「ソン」と告げた。1点リードの6回。2番手の高梨が、先頭の源田に四球を与えた。代打メヒアが打席に入ったところで、3番手・宋に切り替えた。カウント2-2から、外角151キロ直球で見逃し三振に斬ると、山川、浅村と1発のある打者を難なく片付けた。シーズンわずか5試合の男の投入にも梨田監督は「先を見て、後半戦から試してきた。(残る救援投手の)後ろから考えても、あそこはソンしかいない。まあ得したけどね」と、得意のダジャレで喜んだ。

 1敗から1勝1敗のイーブンとした前夜に「死力を尽くす。総合で」と言った。先発美馬が2点リードの5回に連打から1点を奪われた。2死三塁で次打者・秋山には初回に三塁打を許していた。梨田監督は「同点だけは絶対に駄目」と、高梨にチェンジ。普段は1イニング登板の福山も7回からイニングまたぎで起用。「シーズンでしない。ブルペンもベンチワークもうまくいった」。状況を精査し、勝利の方程式も壊し、確実な方法でリードを死守。CS初戦に敗れたチームの突破率は8・7%だったが「面白かったね。パ・リーグでは今までなかった」とデータを超える継投を演じた。

 指揮官を支えたナインは、海の向こうで戦う同志からエネルギーを得ていた。CS前の12日、Koboパーク宮城での全体練習。自分の番の打撃練習を終えると、選手は足早にロッカールームに戻った。選手、スタッフの視線はテレビ。OB田中が所属するヤンキースが、リーグ優勝決定シリーズをかけて戦っていた。次の練習メニューまでのわずかな時間でさえ、没頭した。2連敗の後、2連勝で迎えたその一戦。選手だれもが「今、何対何」と動向を気に掛けた。結果的にヤンキースは逆転3連勝でア・リーグ地区シリーズを突破。嶋が、銀次が、多くの選手が、口をそろえて「えぐい!」と震えた。

 自分たちに重ねた。優勝を目指したシーズンは3位で終えた。そこから「下克上で日本一」と目標は明確だった。CS初戦は落とした。だが、みなの心は1つだった。銀次は言っていた。「誰も諦めていない。俺たちもやってやる」。梨田監督は「最後は気合」と言っていた。選手の闘志、指揮官の精神論が敵地で合致した。13年以来の日本一へ-。福岡でも、勝ち進む。【栗田尚樹】

 ◆初戦黒星からの突破 昨年まで3試合制のプレーオフ、CSは両リーグで23度あり、初戦黒星から突破は06年ソフトバンク、09年中日だけで突破確率8・7%。初戦黒星の23チーム中、●○で逆王手は13チームで、逆王手からの突破確率も15・4%だった。