菅野、来季マー君以来の全項目制覇「完全沢村賞」だ

沢村賞を受賞し「沢村賞」と書いたサインボールを見つめる巨人菅野(撮影・野上伸悟)

 来年は「完全制覇」で2年連続受賞を目指す。故沢村栄治氏を記念し、シーズンで最も優れた先発完投型の投手に贈られる「沢村賞」の選考委員会(堀内恒夫委員長)が30日、東京都内で開かれ、セ・リーグ最多勝と防御率の2冠を達成した巨人菅野智之投手(28)が選ばれた。巨人からの受賞は02年上原浩治以来。菅野は選考基準で未達成だった「10完投以上」と「200イニング以上」を来季は満たし、全項目をクリアしての受賞でチームを優勝に導くことを目標に定めた。

 自身の今季スローガンに定めた「頂(いただき)」に上り詰めた菅野は、誇らしげだった。「投手としての最高の名誉である沢村栄治賞を受賞することができて本当に感動しています。誇りに思いますし、言葉で表せないぐらい感動しています」。マウンドでの鬼気迫る表情とは打って変わり、穏やかに頬を緩めた。

 険しい道のりを進んだチームの中で、奮闘した。エースを務めたWBCの疲労を見せず、開幕から大黒柱を担った。4月中盤から5月にかけて3連続完封をマークするなど、17勝は自己ベスト。球団ワーストを更新する13連敗を喫するなど11年ぶりにBクラスに沈んだチームの中、投手2冠を含め、個人成績では堂々とした数字を並べて見せた。

 積み上げた記録への達成感には浸ったが、満足はしていない。「10完投、200イニングだけ達成できなかった。来年は全項目をクリアしたい」と高いハードルを掲げた。全項目をクリアしての受賞は11年の楽天田中将大(現ヤンキース)が最後。マー君以来、誰も達したことのない「頂」を目指すと公言した。

 到達への鍵をすでにイメージしている。「ストレートと落ち球。今年良かったコンディショニングの維持。この3つを徹底したい」。投球の幅を広げるため、直球のレベルアップに加え、シーズン前に習得に励んだチェンジアップやフォークなど、有効な落ちる球を模索する。加えて今季の好結果の要因ともいえる調整法にも磨きをかける。

 来季は選手会長にも就任し、名実共にV奪還を目指す巨人の先頭に立つ。「自分が賞を取ることが、チームの勝利につながると信じています。とにかくチームを優勝に導くこと。今回沢村賞をいただいて、さらに求められるものも自分の目指すものも高くなっている。そういうのも力に変えていきたい」。チームとともに、もっと高い頂へと歩を進める。【浜本卓也】

 ◆沢村賞 不世出の大投手といわれる故沢村栄治氏(巨人)の功績をたたえ、1947年(昭22)に制定された。沢村賞受賞者または同等の成績を挙げた投手で、現役を退いた5人を中心とする選考委員会で決定する。当初はセ・リーグ投手を対象にしたが、89年から両リーグに対象が広げられた。受賞者には金杯と副賞300万円が贈られる。

<選考過程>

 巨人菅野は、西武菊池との一騎打ちを制して、初選出された。先発完投型の投手が対象になる沢村賞の選考基準は

(1)15以上の勝利数

(2)150以上の奪三振数

(3)10以上の完投試合数

(4)2・50以下の防御率

(5)200イニング以上の投球回数

(6)25以上の登板数

(7)6割以上の勝率

の7項目がある。菅野は菊池とともに(3)、(5)以外の5項目をクリアした。

 平松政次委員から2人同時受賞の案、山田久志委員から「指名打者制があるパ・リーグでの成績は加味してほしい」と、菊池を後押しする意見が出る中で議論を重ね、最終的に菅野1人に決定。沢村賞は03年を最後に、受賞者1人が続いている。堀内恒夫委員長は「ベストワンを選ぶということで協議し、5人が菅野君を選んだ。菅野君は防御率と勝利数がセ、パを通じても最高。残念ながら菊池君にはなくて少し差があった」と全会一致で選出した。

 選考委員会では、来年から7項目の選考基準の補足として、7回自責点3以内の沢村賞基準の「クオリティースタート」の割合を考慮することを決めた。投手分業制が進み、全7項目をクリアしての受賞は11年の楽天田中(現ヤンキース)以来出ていない。堀内委員長は「先発完投型の投手をたたえるスタンスに変更はない」と、米国などで用いる一般的なクオリティースタート「6回自責点3以内」ではなく、7回に設定した。

 ◆沢村賞選考委員(敬称略、就任順)平松政次、堀内恒夫、村田兆治、北別府学、山田久志