史上初5人60登板…常識覆す阪神「1度」の肩作り

阪神ドリス(17年9月9日撮影)

 「今年の阪神」には、史上最強の鉄壁リリーフが誕生した。虎の救援陣5人が今季シーズン60試合に登板。60試合以上登板の投手が同一チームに5人はプロ野球史上初だった。なぜ5人もの投手が60試合に登板できたのか。ブルペンに隠された秘密に迫った。

 雨降る横浜で猛虎の鉄壁リリーフ陣が歴史に名を刻んだ。9月27日DeNA戦。阪神は7投手のリレーで4時間30分のゲームを4-4の引き分けに持ち込んだ。最後は守護神ドリスがイニングをまたいで2回無失点。このドリスの登板がチームでは桑原、岩崎、マテオ、高橋に次いで5人目の60試合登板。60試合以上登板の投手が同一チームに5人はプロ野球史上初だった。

 12球団トップの救援防御率2・68。これだけで今季ブルペン陣のすさまじさを示しているが、11月のNPBアワーズでは、桑原とマテオが43ホールドポイントで最優秀中継ぎを受賞。ドリスが37セーブでセーブ王に輝くなどリリーフのタイトルを虎が独占した。

 種まきは昨年から始まっていた。日本球界では今でも肩の「2度作り」が一般的。投げる可能性があろうが、なかろうが1度ブルペンで肩を作る。暖機をしてエンジンを暖め、マウンドに上がる直前に、もう1度…。だが、阪神のブルペンにはルールがある。「肩を作るのは1度だけ」。金本阪神誕生からブルペンを任される金村暁投手コーチ(41)はその常識を覆した。

 金村コーチ シーズンを戦う上で全然違ってくると思う。それは選手が体で感じているんじゃないかな。もっと言えば、選手寿命にも関わってくる。

 1試合で10球ほどの違いでも、143試合だとすると単純計算で1430球も少なくなる。最初は戸惑いもあった選手たちも2シーズン目となると、当たり前のように「金村ルール」が体に染みついた。昨季の1軍登板なしからシンデレラボーイとなった桑原も「1度作り」は初体験ながら、その効果を実感している。

 桑原 (ブルペンに)立ってるだけでいいという日もあった。3日空いたらピッチング。気になったらキャッチボール。年間通してだと全然違う。効果? そうですね。1年間持ったんで。

 「60試合クインテット」に藤川を加えた、6投手が50試合登板を達成。開幕時から救援陣の顔ぶれがほぼ変わらないという奇跡のようなシーズンをこう振り返った。

 金村コーチ 一応、勝ちパターンはあったけど、(勝利の方程式は)1つじゃなかった。開幕メンバーが最後までいくというのは僕としては理想の形。実力のある投手がそのまま実力を出してくれた。

 「勝利の方程式」と言えば、試合終盤の7、8、9回を固定して逃げ切り態勢を作る定石。だが、今季の阪神は守護神ドリスまでを5人の投手が柔軟につないだことで、登板試合に偏りが生まれなかった。金村コーチが浸透させた負担軽減の調整法。そして、ブルペンに勝ちパターンを担える実力者が集結したこと。複数の要因が重なって「史上初」が生まれた。【桝井聡】