菅野適時打より四球に悔い…WBC米国から得た教訓

3月、WBC決勝ラウンド準決勝の米国戦で、4回表米国2死一、二塁、菅野はマカチェンに左前適時打を打たれ失点する

 忘れてはいけない1敗がある。3月の第4回WBC準決勝の米国戦。侍ジャパンは1-2で敗れ、2大会続けて優勝を逃した。1点差は「惜しい」か「遠い」か。先発し6回1失点と重い試合で存在感を放った巨人菅野智之投手(28)の言葉から奪還のヒントを探った。

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 高級住宅街のパサデナ地区でも、侍ジャパンが拠点としたランガムホテルはとりわけ優雅な空気が流れていた。開業1907年、アフタヌーンティーで有名なロサンゼルス郊外の5つ星。米国戦を翌日に控えた3月20日、ほとんどの選手が昼下がりを最後の「つかの間」に充てる中、菅野と小林のバッテリーは違った。

 夕方早くから食事会場に入ってこもり、2人で分析を続けた。菅野はロス入りの直前、強化試合を行ったアリゾナで偶然、上原浩治と会った。国際試合無敗の鬼から「相手どうこうより、まず自分。自分の投球をすれば大丈夫」との言葉をもらっていた。

 額面通り「大丈夫」とは思えなかった。研究を重ねることは、その脅威について理解を深めることに直結していた。菅野は、上原の助言を「相手を知りすぎても良くない」と解釈した。「スタントンが8番にいる打線。穴がないから、上位や中軸は無理せずに下位で勝負するような計算、組み立てができない。力の強弱をつける場所がない」。

 ヤンキース監督として名声を極めたジョー・トーリをGMに据えた米国。招集前に選手と面談、忠誠心を確かめる徹底ぶりで「USA」の威厳を取り戻しにきた。スタメン野手の7人全員がゴールドグラブを経験している。救援陣は目下のメジャーにおける最高峰。防御に比重を置いた陣容に見えるが、攻撃力にも目を見張るモノがあった。

 スタメンの今季成績に特徴が表れている。スタントンの59本塁打が突出している他は「打率2割8分前後、30本塁打前後、80打点前後」の近似値に収まっている。チームに絶対欠かせない、確実に数字を残す本物たち。「知りすぎ」は脅威にしかならない…菅野の予感は1回、先頭キンズラーと対し的中した。

 カウント1-1からの3球目、アウトローいっぱい93マイル(約150キロ)の直球。雨を吸ったWBC球を、高い反発音ではじき返された。「ライトの青木さんが下がってフェンス手前まで行って、2、3歩前に出て、捕った。自分の中でいい真っすぐだった。『今日はいい』と手応えがあった。でも打球と青木さんの反応を見て『単なる打ち損じ、紙一重だ』と感じた」。自分は好調。わずかに手元が狂ったらやられる。表裏一体、2つの情報を得た。

 見立てに狂いはなかった。集中し、全力投球を制御し続けていた4回2死一、二塁。6番マカチェンに先制の左前適時打を許した。1ボールからの2球目。ストライクともボールとも解釈できるアウトローいっぱい、83マイル(約134キロ)のスライダーだった。

 初球もまったく同じコース、まったく同じ球速でスライダーを投げていた。受けた小林が大きくうなずいて返球した。日本の右打者では手が届かないピンポイントも、メジャー屈指の身体能力を誇る好打者には通用しなかった。長いリーチと軸回転の高速スイングで合わされ、軽々と三遊間を突破された。「そこを指摘されるとちょっと」。唇をかんで「キツいですよね」と、しばらく押し黙った。

 日米両国の頂点における投打の攻防には、認めざるを得ない現実がある。自分のベストボールを投げても打ち返されてしまうことが十二分にある。「あのタイムリーよりも、今でも反省というか悔いが残るのは、直前なんです。すべてはその前」と明かして続けた。

 「ホスマーを2球で簡単に追い込んだのに、4球ボールを続けて歩かせた。ボールからボールの4球。勝負を焦ったというか…制御できなかったあの4球。せっかくツーアウトまできたのに、切るべきところで切らなかったから、ああいう…」

 5番のホスマーは左の強打者。果敢に初球から勝負し、ひざ元のスライダーを振らせ、続けて内角高めのつり球を振らせた。真っ向から追い込み、詰めを誤った。いや、詰めの作業にまで至らなかった。菊池の失策で1死二塁となり、2死までこぎ着けていた4回。「エラーの走者は別に気にならなかった」。巨人でもまれたメンタルが中盤の入り口で揺らぎ、手元の狂いにつながった。

 6回を被安打3、1失点。何も責められる内容ではない。背中を押した上原も「菅野はすごいなぁ」と認めた。しかし振り返って、菅野が得たものは自信ではない。現在地と教訓だった。投げきっても打たれる。ならば投手有利に立ったら絶対に仕留め、ピンチを水際で防いでいく-。

 「ワンマッチだから力を出し切れて、好投できたんだと思います。対戦が重なるシーズンだったら、どうでしょう。続けるのは正直、難しいと思います。それにあの、ホスマーへの4球。ああいう無駄な走者を出しては絶対に勝てない」

 米国、ドミニカ共和国、ベネズエラ、プエルトリコ。この4カ国に打ち勝つことは困難な以上、クロスゲームにしか勝機はない。日本人投手には、球威と制球を高いレベルで両立させる能力がある。ものすごく細い糸かも知れないが、菅野が感じた“4球の壁”を越えた先に、勝利をたぐり寄せる確かな道筋がある。【宮下敬至】

 ◆米国戦VTR アメリカは4回、マカチェンの適時打で先制。日本は6回、菊池のソロで同点。8回1死二、三塁で三塁手の松田がゴロをはじく間に決勝点が入った。5投手の継投で被安打6に封じたが、打線が相手7投手の前に散発4安打と湿った。