三木谷氏、星野氏は育ての親であり恩人/感謝の思い

星野仙一氏お別れの会で弔辞を読みながら号泣する楽天三木谷代表取締役会長兼社長(撮影・小沢裕)

 中日、阪神、楽天の監督を歴任し、今年1月4日に膵臓(すいぞう)がんのため70歳で死去した星野仙一氏のお別れの会が19日、東京・港区のグランドプリンスホテル新高輪で行われた。球界内外から3150人が集い、別れを惜しんだ。楽天三木谷浩史会長兼オーナー(53)、山本浩二氏(71)らが弔辞を読んだ。三木谷オーナーは涙を流し、星野監督の背番号77を永久欠番とする意向を表明。本紙に思いを寄せ、勝利への執念を植え付けた功績に感謝した。

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 監督として、球団の副会長として、星野さんは楽天イーグルスの礎を作ってくれました。育ての親であり恩人です。

 戦力、組織の積み上げに大きなハンディがある新規参入球団にあって、創設から9年で優勝に導いてくれました。その手腕もすごいと思いますが、まだ、どこの球団でも監督をやれたと思うんです。でも、こういう新しい球団の監督を引き受けてくれたこと。本当に敬服しています。

 星野さんがイーグルスに残してくれた一番の財産は、戦う上での闘争心です。プロの世界で何が大切かと言えば、最後は絶対に気持ちである。そんなマインドを教えてくれました。

 監督就任を打診した10年オフ、最下位に終わったチームは、立て直しが不可欠の苦しい状況にありました。闘争心がなければ話にならない。戦争じゃないですけど、ゲームの戦いでも、勝たなくてはいけない。戦う前から負けていてはいけない。勝利、勝者の考え方、マインドセットを注入してくれると思って再建を託しました。

 年下の私を「オーナー、オーナー」と立てていただいて。年齢が違うんで、本当はそう思ってはいけないんですけど、伯父さんのような関係で、本音で話ができる間柄を作ってくれました。そばで接し、勉強になることが非常に多くありました。

 持ち合わせていたチャレンジャー精神も、イーグルスに絶対にプラスに働くと信じていました。天然芝の導入やボールパーク化構想など、挑戦に共感し、尊重してくれました。新たなチャレンジは当然、失敗することもある。野球は1試合1試合、絶対勝つ気でいく。でも、相手もあることだから負けるときもある。だからこそ常に前を向き、チャレンジする精神がなければ何も始まらない。真理をよく理解されていました。

 強いリーダーであると同時に、優しい包容力も持ち合わせていました。だからこそ人が集い、あそこまで大きな足跡を残されたのだと思います。

 選手本人に向かっては、厳しい言葉を投げかけたこともあったのでしょう。しかし、私を含め外部には、絶対に悪口を言わなかった。「アイツが悪い、コイツが悪い」。どうしても言いたくなる。その類いは一切、なかった。選手を守る人でした。

 リーダー、エースの精神を非常によく理解している人でもありました。13年のオフ、田中将大がメジャーリーグに行く時です。突然ポスティング制度が変わり、我々は「どうしようか」と悩んでいました。星野監督に「いや、オーナー。将大は今年、これだけやったんだから。行かせてやってくれ」と言われ「ならば」と挑戦を認めました。仁義の厚さが、組織のマネジメントに徹底されていました。

 病状が良くないこと、闘病に関しては、本当に限られた人にしか言いませんでした。立派だな、と。去年も「何とか勝って欲しい」と思いながら、ずっときたんですけど…最後のところで。もうちょっとでしたけど…。崩れたときに、どう立て直すのか。去年の反省を十分にやって、シーズン通してのマネジメントができると思います。遺志を継いで、選手たちはやってくれるはずです。

 我々イーグルスの戦いにおいてはもちろん、球界全体に目を向けても、星野さんの遺志を継ぐことが使命だと考えています。訴えていた野球界の未来について、よりよい方向に進むよう考え、挑戦しなくてはいけません。

 楽天は2004年に選ばれ、翌05年に球界に入った。今だからこそ、当初のことを忘れてはいけないと思います。球界のリーダーではありませんけど、イノベーションリーダーである。誇りを持って、今までもこれからも、新しいことをいろいろとやって、さらに盛り上げていかないと。「スターがどんどんメジャーリーグに取られていくようじゃダメだ。メジャーより面白い野球界を作ろう」と志を携えて、取り組んでいく必要があります。

 言い方が悪いですけど、今の日本のプロ野球というのは、高度経済成長期の前のモノだと思います。新しい思想で「一大産業にしていくんだ」と、考え方を変えた方がいい。

 例えば外国人枠を撤廃し、日本に来るべき新たな社会観を提示する必要がある。裾野をどう広げていくかについても同じです。プロ野球選手が息子とキャッチボールできない。理解不可能です。セ・リーグとかパ・リーグとか、立ち入れない禁断のエリアとか…そんなことをしているヒマは、もうない。

 星野さんのように、球界内外、ビジネス界にもあれだけのネットワークを持っているリーダーは、なかなかいません。本来ならば、いずれコミッショナーをやっていただきたいと思っていた。無念です。だからこそ、残された遺志を球界全体で受け止め、失敗を恐れずに挑戦し、前に進んでいく姿を見守っていてもらいたい。強く思います。(談)