浅村の右打ちに感心/森元監督が辻監督にV指南1

87年日本シリーズで2人が握手を交わす写真を手に笑顔を見せる森氏(左)と辻監督(撮影・狩俣裕三)

 黄金時代の指揮官からの金言だ。西武元監督で日刊スポーツ評論家の森祗晶氏(81)が、西武球団40周年記念事業のゲストとして20日にメットライフドームを訪れ、監督時代の教え子である西武辻発彦監督(59)と対談した。米ハワイ在住の森氏だが、開幕から首位を走る古巣の戦いのチェックを欠かさない。混戦模様のペナント争いを10年ぶりに制するためには? リーグ優勝8回、日本一6回の経験も交え、直球で語った。【取材・構成=古川真弥】

  ◇   ◇   ◇  

 森氏(以下、森) ハワイでも試合は見てるよ。はっきり言ってもったいない。終盤の失点がものすごく多い。前半戦だけで5、6勝は損してるんじゃないかな。競って負ける分は仕方ない。だけど、前半にリードしてて後半つまらんことで追い付かれて負けるほど腹立たしいことはない。もう辻監督は我慢の我慢をしているところじゃないかな。

 辻監督(以下、辻) ファンの皆さんも思っているように台所は苦しいですね。

 森 長いペナントレースには取らなきゃいけないゲームがある。思い出すのは89年。近鉄に0・5ゲーム差で優勝を譲った。(10月12日の)ダブルヘッダーでブライアントに4連発を打たれたけど、それよりも、その前(同5日)にダイエー(現ソフトバンク)に8点リードをひっくり返された。その1敗がものすごく大きいんだな。取らなきゃいけないゲームだった。後半戦はそういうゲームが大きくなってくるよ。

 辻 選手は一生懸命頑張ってます。ただベンチで見ている身としては、打てなくても何てことないんですが、投手に関してはしんどいですね。終盤で3、4点勝っていてもです。寿命がだいぶ縮まってます(笑い)。心臓、どきどきしてます。

 森 ハハハ。分かるよ。向こうでテレビで監督の顔を見てるとね。

 共感する2人。シーズン終盤へ向け、投手陣の立て直し策はあるのか。

 辻 急に技術を上げるのは難しいですね。

 森 言葉は悪いけど捨てるものは捨てる。全部取りにいくのではなくて、3連戦であれば1つは捨ててもいいから2つを取る。じゃないと、しわ寄せが来るよ。むやみに投手をつぎ込んで、次に投げる人がいなくなったらいけない。その代わり、次は取るという態勢を作っていく。ある程度計算できる投手を大事に使っていかないと。

 辻 もちろん、そう考えています。当然、3連戦の中で2勝1敗、1勝2敗という形になっていく。3連勝なんてそうはできない。そういう形でいかないと暑い夏は乗り切れない気がします。

 投手陣に厳しい目を向けた森氏だが、野手陣は「文句なし」と合格点。特にある選手を高く評価した。

 森 感心したのは3番の浅村。追い込まれてから右打ちで走者を進める。監督が目指す野球を理解していなきゃ、できる芸当じゃない。あれを見てチームが大きく変わったなと思った。他の選手も浅村を見て、自分たちもと感じればチームにとって大きな戦力だね。

 辻 浅村は1年目にキャプテンに据えました。言葉は少ないですけど、キャプテンマークをつけた意味を姿勢で見せてくれます。大きいですよ。

 リーダーを通じ、チームをまとめ上げる。辻監督には森監督時代に選手会長を務めた経験がある。

 辻 選手会長として、ある程度チームの中のことは任されましたよね。不満も多少は出てきます。たまに「今、どうだ?」と森監督が僕を通して聞いてくれました。僕からは「大丈夫です。こっちでやっておきます」と。選手たちで考えてやるというのは僕らの時代でもあったし、ベストだと思っています。

 森 浅村の姿勢が得点に結びつけば他の選手も理解する。キャプテンが身をもって示し、勝利につながる。そういうことが膨らんでいけばチームは強い。監督が言わなくても勝利につながる。内面的なことは監督は分からない。やはり選手の長が一番分かっている。

 ◆森祗晶(もり・まさあき)1937年(昭12)1月9日、大阪府生まれ。岐阜高で甲子園出場後、55年巨人入団。V9時代の正捕手でベストナイン8度。通算1884試合、1341安打、81本塁打、打率2割3分6厘。西武監督9年間で8度リーグV、日本一6度。正力松太郎賞2度、05年野球殿堂入り。現役時代は174センチ、84キロ。右投げ左打ち。

 ◆辻発彦(つじ・はつひこ)1958年(昭33)10月24日、佐賀県生まれ。佐賀東-日本通運を経て83年ドラフト2位で西武入団。西武黄金期の二塁を守り、首位打者1度、ベストナイン5度、ゴールデングラブ賞8度。96年ヤクルトへ移籍し、99年引退。通算1562試合、1462安打、56本塁打、打率2割8分2厘。182センチ、80キロ。右投げ右打ち。