甲子園の芝大雨でピンチ 回復うながす猛暑/コラム

甲子園球場(2018年8月1日撮影)

<酒井俊作記者の旬なハナシ!>

 青々と茂る芝生がまぶしい。

 右翼ポール際には「100」と書かれた開会式の入場ゲートが設けられていた。

 黒土の内野では、阪神園芸の職員たちが入場行進する球児の整列に備え、作業を行っていた。この日、涼しい京セラドーム大阪で行われた阪神の練習取材を終え、甲子園に向かった。グラウンドに立つだけで汗が噴き出た。だが、時折、頬をなでる風が猛暑を和らげてくれる。意外だった。

 グラウンドキーパーを束ねる金沢健児さんは「暑いけど、ここは風が吹いている。選手はかなり暑さが軽減されると思う。浜風が、意外に有利に働きます」とうなずいた。幼少期から甲子園に親しみ、愛情を注いできた人だ。過去にない暑さのなかで高校球児がプレーする。観衆を含めた健康面が心配されるなか、自然の摂理が、全力で白球を追う選手をいたわってくれる側面もあるのだという。

 実は約1カ月前、甲子園はかつてないピンチに見舞われていた。7月5日中日戦、6、7日のDeNA戦が3試合連続の雨天中止。金沢さんは「3日間、大雨で芝生は水に浸かりっ放しになって酸素が入らない。そういう経験はなかった」と振り返る。外野フェンス沿いなどの芝は枯れた状態だった。水がひくと、芝に6センチほどの小さな穴を開けて、通気性、通水性を改善する作業を行った。「水が腐ったようなニオイがしてね」。芝もまた、生き物なのだ。悲鳴を上げていた。

 それでも、芝はよみがえった。回復をうながしたのは猛暑なのだという。「暑ければ暑いほど、芝の成長が速い」。グラウンドキーパーが工夫し、自然の地力が後押しする。そうやって芝は生気を取り戻した。金沢さんは88年の70回大会から球場整備に携わり、03年からチーフを務める。「例年以上の仕上がり。100回大会にふさわしい芝を作れたかな」と胸を張った。

 さて、この暑さである。高校野球のドーム開催案がSNSなどで話題になっているという。今後、炎天下を避ける試合運営など対策は必要だ。だが、ここには陽光や風雨の織りなすドラマが無数にある。気まぐれな自然のなかで生き、知恵を絞ってきたグラウンドキーパーがいる。「夏の甲子園」たらしめる姿を見た。