ヤクルト再生工場だ 育成から復活古野3年ぶり1勝

阪神対ヤクルト 5回裏阪神2死二塁、古野は糸井を遊ゴロに打ち取り大きく手をたたく(撮影・加藤哉)

<阪神2-4ヤクルト>◇29日◇甲子園

ヤクルトが4月16日以来の貯金生活に入った。敵地での阪神戦は、ローテの谷間に先発した古野正人投手(31)が5回2失点と好投。右肩を痛めて育成選手を経験した苦労人が、15年6月25日中日戦以来3年ぶりの白星を挙げ、貯金1の立役者となった。チームは2位をガッチリとキープ。昨季借金51、断然最下位からの巻き返しが続く。

目尻をいっぱいに下げて、古野が三塁側ベンチを飛びだした。守護神石山が9回のピンチをしのぎ、3年ぶりの白星を手にした。「とにかくうれしい。リハビリの2年間の積み重ねを全て出せた」と喜んだ。

気迫が違った。得意のシュートをどんどん突っ込んだ。5回2死二塁で糸井を遊ゴロに仕留めて勝利投手の権利を手にすると、空にほえた。先発ローテの谷間で巡ってきた今季2度目の1軍登板は5回6安打2失点。「内容はどうあれ勝ちにつながったのが素晴らしい」と喜びをかみしめた。

16年6月15日、どん底に突き落とされた。先発したソフトバンク戦で投ゴロを処理した際に右肩を脱臼。苦難の幕開けだった。オフに育成契約を結んだが、至近距離からネットに投げるだけで悲鳴を上げた。17年オフには自由契約。「その時の感情がないというか…『終わったな』と思っていました」。再びヤクルトと育成契約を結んだ今季はラストチャンスだった。

今季は7月中旬でも支配下復帰の声は掛からなかった。不安と恐怖で眠れなくなった。「メンタルをやられました」と未来が描けず、逃げ出したくもなった。そんなとき、高津2軍監督の言葉を聞いた。「昨日より今日、今日より明日をいい日にしよう」。

今を生きるのが大事だと思い出した。変なアピール心を捨てて右腕を振った先に、支配下登録の吉報が届いた。「周りの皆さんのおかげ。結果で返していかないと」。負傷から805日。生まれ故郷の兵庫にある、13年4月19日にプロ初マウンドを踏んだ甲子園の地で、痛みと不安との闘いから解放された。

今日にも出場選手登録を抹消されるが「次への準備をしっかりして過ごしたい」と言った。昨季96敗の苦難を乗り越えてクライマックスシリーズ進出を目指すヤクルトには、こんな男も控えている。【浜本卓也】