山田哲人3度目トリプル3王手 ボンズ以来の2人目

ヤクルト対広島 7回裏ヤクルト2死一塁、今季通算30盗塁を成功させる山田哲(撮影・狩俣裕三)

<ヤクルト5-6広島>◇8月31日◇神宮

世界で2人目の偉業を、手中に収めた。ヤクルト山田哲人内野手(26)が8月31日、2年ぶり3度目のトリプルスリー達成を決定的にした。広島19回戦(神宮)の7回2死、二盗に成功。達成条件の「30盗塁」「30本塁打」の2つをクリアした。打率はシーズン終了まで確定できないが、現時点で3割超えの可能性が高い。3度目の達成は日本では史上初。米大リーグでもジャイアンツなどで活躍したバリー・ボンズしか成し遂げていない大記録だ。

いつものように、山田哲が迷わずスタートを切った。7回2死。左前打で出塁すると右翼席から「走れ」コールが起きた。野村-会沢の広島バッテリーもバレンティンの1ボール後に3連続けん制。誰もが「30盗塁」を意識していた。

期待と警戒心が入り交じる異様な雰囲気で迎えた、2球目。山田哲だけが平常心だった。低い体勢から二塁へ駆けだし、タッチより早く右足を突っ込んだ。大歓声の中心で「30号」に続き「30盗塁」もクリア。日本初、米メジャーでもボンズのみの「3度目のトリプルスリー」をほぼ手中に収め「2球目に行くと決めていた。タイミングがあったのでイメージ通り走れたかなと思う」とうなずいた。

偉業への挑戦は「恐怖心」から始まった。3年連続トリプルスリーを逃し、チームも96敗を喫した昨年末、実体のない不安に襲われた。「実力が落ちている。自分で分かるんです。だから気持ちの持っていき方が難しい。調子うんぬんじゃないんですよ」。

18年を迎え、気付いたことがある。少年時代の志。「小学校からずっと誰かのためにと野球をしてきた。両親に家を買ってあげるために頑張ろう、とか」。今、周りにはチームメートやファンがいた。「もう1度トリプルスリーをやって、チームが勝てるようにしたい」。前人未到の高い壁を設定し、公言することで自分に緊張感を持たせた。「やるしかないっしょ」。再び目に力が宿った。

内面的な進化が技術を高めさせた。2月に古巣に復帰した青木からは「才能に気付いていない。もっとすごいプレーヤーになる。内面から変わっていけばもっともっと良くなる」と期待をかけられた。憧れのミスタースワローズからの言葉が響いた。「青木さんはいつも前向きな言葉をくれる」。右足に体重を乗せて軸回転で打つ打撃フォームにも肉体強化にも熱が入った。盗塁も「足には自信があるから初球から行く」と積極性を取り戻した。「メジャーとは(意味合いが)違うけど、ボンズは偉大。2人目になれれば光栄ですね」。調子を上げてきた盛夏には不安の影は消え、偉業達成はクリアすべき課題に変わっていた。

残り29試合。チームはクライマックスシリーズ進出を争う位置につける。40本塁打、40盗塁の「40・40クラブ」を期待する声も聞く。「30盗塁を目標にしていたので良かったですけど、まだ走れる場面があれば走っていきたい」。絶望の淵からはい上がった山田哲の未来には、誰も見たことのない景色が待っている。【浜本卓也】

◆大リーグのトリプルスリー これまで22人が記録し、複数回は3人。ウラジミール・ゲレロ(エクスポズ、01~02年)とライアン・ブラウン(ブルワーズ、11~12年)がいずれも2年連続で到達。最多はバリー・ボンズの3度で、パイレーツ(90、92年)ジャイアンツ(96年)で達成した。

▼山田哲は今季420打数132安打で打率3割1分4厘。規定打席(443)に到達しており、欠場しても3度目のトリプルスリーは達成できる。残り29試合も出続け1試合4打数と仮定すると、29安打で3割以上。2割5分ペースを維持できれば達成となる。