新井辞めるな!球団慰留も3年後のカープ考えた引退

引退表明会見で記者の質問に笑顔で答える新井(撮影・栗木一考)

広島新井貴浩内野手(41)が5日、マツダスタジアムで会見し、今季限りでの現役引退を発表した。16年にはリーグMVPを獲得した球界を代表するスラッガー。誰からも愛された男が、プロ20年目の区切りを迎え、惜しまれながらバットを置くことを決断した。球団初のリーグ3連覇は目前。「日本一になって、みんなとうれし涙で終われれば最高」と有終の美を飾るつもりだ。

新井が大きな決断を下した。ユニホーム姿の会見冒頭に「今シーズン限りで現役を引退することに決めました」と報告。8月初旬に球団に申し入れた。慰留されたが、1カ月かけても答えは変わらなかった。ファンと球団に感謝の気持ちを述べると、有終の美を目標とした。「日本一になって、みんなとうれし涙で終われれば最高かな。自分も力になれるように、最後まで全力でやりたい」。

プロ20年間で最も思い出深いのは、2年前のリーグ制覇という。メジャー帰りの黒田とけん引し、広島では初優勝。リーグMVPにも輝いた。翌年からの出場数は減少。今季は50試合にとどまっている。「若手が力をつけている。3年後、5年後のカープを考えた時に、今年がいいんじゃないか」。成績の低下と同時に、押し寄せる世代交代の波を潔く受け入れた。

実直で、真面目で、分け隔てない性格。誰からも愛される。打席に入る時のテーマ曲はスキマスイッチの「全力少年」。常に全力であり続けた。ベンチで大声を張り上げ、後輩のナイスプレーに目いっぱい喜ぶ。技術、精神の両面でアドバイスを送り、立ち直った選手も多い。溝ができやすい投手と野手の間を埋められる存在でもあった。そして恒例のいじりは、今年も野間、バティスタらを相手に至るところで発生した。

硬軟織り交ぜ、チームに自然と一体感を呼ぶ。勝負の世界にあって、他の選手とは違った魅力に包まれる貴重な存在。チームメートには、前日4日の試合後に自分の口で引退を伝えた。「みんなシーンとしてたけど、(上本)崇司クンと野間クンが小さくガッツポーズしていたというのは聞きました」とニヤリ。笑いを交えて振り返ることができるのも、新井らしさだ。

涙を流して阪神にFA移籍し、自由契約で広島に戻ると温かい拍手に包まれた。その復帰初戦を「生涯忘れることはない」と言った。残り少なくなったシーズンは、ファンと球団に恩返しする時間。この日は5回2死二塁で代打で登場。持ち前の力強いスイングを見せたが6球目を空振りして三振も、大歓声が待っていた。「本当の戦いは(CSと日本シリーズがある)10月、11月。最後まで、かわいい後輩と喜び合えるように頑張っていきたい」。ポリシーを貫き、美しい花道を飾る。【大池和幸】