八戸学院大・正村監督、プロ投手多数育てた理論語る

投手の指導論を話す八戸学院大・正村監督(撮影・鎌田直秀)

プロ野球選手を数多く育てた北東北大学野球リーグ八戸学院大・正村公弘(やすひろ)監督(55)の投手育成の軸は、「ぶれない軸」強化にあった。下半身にためた力をリリースする指先まで、いかに有効に伝えるかを追求する。今夏の甲子園で準優勝した金足農・吉田輝星投手(3年)にも助言して好投を導いた「正村理論」が明かされた。【取材・構成=鎌田直秀】

理想的な投球フォームを日本の工芸品「でんでん太鼓」にたとえるなど、「正村理論」は分かりやすい説明から始まった。

正村監督 下半身の力を、最後の指先のリリースにどう伝えられるか。それは指導を始めてから変わらない。体を止めて、腕を走らすための軸を教えている。でんでん太鼓は、軸がしっかりしていれば同じところに当たる良い例。軸に回転も加わる。支点がしっかりしていなければ作用点にも力が入らない。軸がぶれずにしっかり止まっていれば力強く振れるでしょ。

安定した軸の形成には“鉄則”があった。マウンドから捕手方向に、肩幅の2倍くらいに足を広げる。体の軸は直角に。その体勢から回転を加えて、投球を繰り返す。利き腕のテークバックを肘から上げることも最低条件だ。

正村監督 投手は打者よりもステップ幅が広いから、より難しい。体重は移動させながら、回転が入ってくる練習。しかも軸はしっかり保つ。軸を含めた下半身の使い方で、こういう教え方をする人は、そんなにいないのではないかなあと思っています。

大成への登竜門。楽天で活躍する青山浩二投手(35)も顕著な1人だ。アームのような腕の振りが改善され、安定感が増した。10年にドラフト1位で楽天入りした塩見貴洋投手(30)も、軸を基本にした3年冬のフォーム改善が転機に。軸足となる左足のかかとに重心を長く保ち、一気に爆発させるイメージでの体重移動が、最終学年での飛躍につながった。

高校野球界のスターとなった金足農・吉田も、嶋崎久美元監督(70)の仲介で指導役を務めてきた。初の出会いは昨年10月5日。同様な軸の修正が、甲子園準優勝を導いたと言っても過言ではない。

正村監督 ゼロポジションです。軸がぶれないように、まっすぐに戻しただけなんだけどね。肩や肘の角度は変えずに、一塁側方向に倒れていた軸を正しい軸にした(表参照)。これでいいんだと思えるまでは結構時間がかかった。最初の3カ月くらいは、(投球フォームの)違和感をすごく感じていたようです。でも、つかんでからは速かったね。すべてはリリースを安定させるため。

年明けから感触をつかみつつあり、2月のブルペン投球を見た時には、理想的なフォームに生まれ変わっていた。メジャーで活躍した野茂英雄や岡島秀樹ら例外的な天才肌もいるが、頭を振りすぎないことも重要な要素だ。

正村監督 良くなったのは、直球の制球力。内角が死球になっていたものが、ストライクの際どいところにズバッと放れるようになった。だから外の変化球も生きてきた。甲子園でもスライダーやカットボールが良いって言われていたけど、まだまだそんなにすごい球ではない。だからこそ、内角直球を投げられるフォームを、もっともっと追求してほしいですよね。吉田は顔も動かなくなった。

近年、導く過程は変化しつつある。「以前は練習7に試合3の割合で、『これだけ練習したのだから大丈夫』と自信を付けさせていたけれど今は逆。なるべく、結果に見えない努力はしたくない。辛抱できない。試合の中で結果を出して自信を付けさせるような接し方が必要になってきている」。好投手を育成する正村監督の指導の軸は、ぶれることはない。

◆正村公弘(まさむら・やすひろ)1963年(昭38)9月7日、東京都生まれ。東海大浦安-東海大-NTT東京(現NTT東日本)。現役時代は、新人王を獲得した元オリックス酒井勉(現オリックスコーチ)、元中日与田剛(現楽天コーチ)らと同チーム同学年で過ごした技巧派左腕。34歳で引退し、03年に八戸学院大コーチ就任。10年から監督。指導した主なプロ野球投手は川島亮(ヤクルト03年自由枠)、石川賢(中日03年3位)、三木均(巨人04年自由枠)、青山浩二(楽天05年3位)、塩見貴洋(楽天10年1位)。

八戸学院大の最速152キロエース左腕・高橋優貴(4年=東海大菅生)も、正村監督の指導に感謝した。プロ入りを目指して成長するべく、門をたたいた。当然のごとく、軸の大切さから学んだが「フィールディング、けん制など、投げる技術以外のところもやっていかないとプロにはなれないと言い続けていただきました。特に大きく成長できたのはピッチングの“間”だと思います」。

正村監督も同じ左投手。「一塁けん制は、投げるまで打者は見なくていい」の言葉は衝撃的だった。右足を上げても一塁走者と視線をそらさない。ギリギリまで動きを見て、投球か、けん制の判断を下す術を伝授された。1年春から6試合に登板し防御率0点台。同秋には4勝を挙げた。今秋開幕戦には10球団のスカウトが駆けつける評価を得ている。同監督からも「プロに行った投手はたくさんいるけれど、勝ち負けはともかく、1年からコンスタントにリーグ戦で投げ続けたのは高橋くらい」とたたえられている。

9月1日に東北第1号でプロ志望届を提出した。「ただ力いっぱい投げるだけだった自分に、スピード以外の大事さを教えてくれた恩人。最後に正村さんを神宮に連れていきたい」。25日のドラフト上位指名と、27日開幕の明治神宮大会東北地区代表決定戦勝利で、恩返しする。