高橋監督、有終の下剋上日本一へ 盟友上原初またぎ

ヤクルト対巨人 6回裏、大引を空振り三振に仕留め、ガッツポーズでベンチヘ走る上原(撮影・たえ見朱実)

<セCSファーストステージ:ヤクルト1-4巨人>◇第1戦◇13日◇神宮

今季限りで退任する巨人高橋由伸監督(43)が「ジャイアンツ・キリング」への1勝目を挙げた。ヤクルトとのクライマックスシリーズ(CS)のファーストステージ初戦で4-1と快勝した。積極果敢な采配で初回から田中俊の二盗をきっかけに公式戦8連敗中だった小川から先制点を奪取。5回途中からは盟友上原を投入し、ピンチを遮断すると7回はエンドランを成功させて追加点を奪取。勝率5割未満チームが1度もなし得ていない日本シリーズ進出、そして6年ぶりの日本一へ、執念が詰まったラストタクトで導く。

高橋監督は英断した。1点リードの5回2死二塁。こんなに早く盟友上原を送り込んだことはない。「流れを止めるために行ってもらった。場数は一番踏んでいる投手」。同じ年、同じ日に生を授かった43歳右腕が流れを断ち切るシーンを、ベンチから見届けた。

「失うものはない」。勝率5割未満のギリギリ3位で2年ぶりCSをつかんだ。かつて日本シリーズに出たチームもない。史上最底辺からの挑戦者として指揮した。初回1死一塁から田中俊が二盗を成功させた。シーズンで6盗塁を100%決めているが、初球の企画は技術と勇気が不可欠。「俊太の思いきりが出た」。岡本の先制犠飛で8連敗中の小川から先手を奪う。1点リードの7回無死一塁からエンドランを仕掛け、陽岱鋼の適時二塁打で均衡を破った。代打亀井もダメ押し適時打。采配がビタビタ決まった。

流れを、目に見えないうねりを、自ら生み出した。9月19日DeNA戦。完敗を喫し、就任3年で初めて会見に姿を見せず、言葉を発しなかった。感情を整えられなかったのか。違った。

高橋監督 感情はいつもあるけど、あの試合は何かを越えたとかではない。話すことは監督としての義務。ああすれば、いろいろ言われることも分かっていた。ただ、雰囲気を、空気を、何かを変えなきゃいけなかった。このままではいけないと。あの場で、思いついたわけじゃないし、前からアリかなと思っていた。むやみやたらではダメ。自分なりの根拠がある。批判を恐れて動かないのはいけない。つきものだから。

一線を越えたと思われた行動は、計算と感覚と勇気に裏付けされた決断。だからベンチからきびすを返し、引き揚げた。何かの転機となることを信じて-。

以降、チームは最終戦まで6勝2敗1分けと好転した。3日には就任後3年連続のV逸の責任を背負い、辞任を表明した。翌日のミーティングでは「勝敗の責任を取るのが俺の仕事。悔しいけれど、現実はこうなっている。目を背けることはできない」と涙ぐんだ。

CS初戦も制した。すべての行動が、源流となって今の巨人を推進している。まだ奇跡への道のりは長い。勇猛果敢な采配に「後がないというのがあるので、シーズンと違った部分をね」と短い言葉に収めた。高橋監督が思いのままに動く。【広重竜太郎】