田淵の教え注入!浜中治コーチが大山ら右の大砲育成

4日、シート打撃終了後に選手を集め言葉をかける浜中コーチ

<矢野阪神の頭脳~新コーチに聞く~3>

早朝の安芸から聞こえてくる「音」が変わった。高知での阪神秋季キャンプ。けたたましい打球音が消えた。カンカンカンカン…。金本体制の過去3年は連続ティー打撃が日課だったが今年は違う。午前9時のサブグラウンド。シュッ!! ビュッ!! ブンッ!! 打球音よりも空気を裂くスイング音が際立ち、遠くに向かって打ち込む。ロングティー打撃が日常だった。

2年ぶりに1軍復帰した浜中治打撃コーチ(40)は変化の理由を明かす。

「選手に『何をしたい』と聞くようにして『ロングティーをしたいです』という声が多い。1球1球、集中できるのがある。遠くに飛ばせる選手は、どうすればもうちょっと飛ぶのかと考えてもできるし、そういう意味でのロングティーを」

「脱金本イズム」ではない。若手の強化法は量から質への移行期に入る。浜中は続ける。「連続ティーはしんどいけど、ここ3年間、金本監督のもとでやって振る力はついてきた。その次のさらなるレベルアップの意味も込めたメニュー。選手からの要望でもあるからね」。押しつけずに自覚をうながす「矢野流」だ。

右打ちのスラッガー育成は長年の課題だ。浜中は現役時、通算474本塁打の田淵幸一に影響を受けた。01年に阪神のチーフ打撃コーチとして復帰した、かつてのアーチストから4番のあり方を学んだ。安芸で試行錯誤する大山の姿を見て、当時の自身を思い起こす。

「大山はフォームを気にして、当てにいきすぎているところがある。まずは強く振る。そこからフォームを見つけていけばいい。とにかく彼には『全力で振れ』と伝えている。悩みながら振っているように見えた。だから『思い切り振れ』と。自分も田淵さんにそう指導された。『振る中で学ぶものがあるんだ』と」

田淵からは軸回転で球をとらえる「うねり打法」も伝授された。優勝した03年は開幕4番。故障に泣かされたが、指導はいまも体に染み込んでいる。

いまは後進の台頭を後押しする立場だ。17日の練習試合・韓国LG戦は手応えのある1日になった。中谷が左翼へ本塁打。大山も負けじとスライダーを泳ぎながら左中間へ1発。浜中は大砲候補の2発を喜ぶ。中谷を「来年への自分の形ができつつあるのは自分にとってプラス」と評した。

大山に課すハードルも高い。「変化球を本塁打にするイメージがない。でも、そういう練習もしておいてほしいとよく言っている。『この投手はスライダーの確率が高いから、スライダーを待ってスライダーを打つ練習もしていかないと。打率3割に近づいていくには、そこらへんもやっていかないとあかんよね』とね」。そして、17日の3打席目の話を自ら切り出す。一邪飛だった。「ああいう打席を少なくしないと。手だけで打ちにいくとか。最後(本塁打)みたいに全身を使って打てるようにしないとあかん」。右打ちの長距離砲の系譜は田淵から浜中へ、そして中谷や大山に引き継がれていく。(敬称略)

【阪神取材班】

◆浜中治(はまなか・おさむ)1978年(昭53)7月9日生まれ、和歌山県出身。南部から96年ドラフト3位で阪神入団。右の長距離砲として頭角を現し、01年には球団の第85代4番打者に。08年にオリックス、11年ヤクルトに移り同年引退。通算744試合、580安打、85本塁打、311打点、打率2割6分8厘。現役時代は178センチ、83キロ。右投げ右打ち。