広島が丸の人的補償に34歳巨人長野を指名したワケ

18年12月21日、契約更改を終えた長野久義は、硬い表情で会見に臨む

育成のカープが意外な「一手」を打った。広島が7日、巨人にFA移籍した丸佳浩外野手(29)の人的補償として長野久義外野手(34)を獲得したことを発表。過去は若手を中心に選んできたが、人的補償では野手最高年俸となる長野を指名。リーグ4連覇と日本一を達成するために、求めたピースだった。

育成のカープが35年ぶりの日本一へ「本気」の決断を下した。FA移籍した丸の人的補償は熟考を重ねて、年を越した。指名したのは、実績十分の長野だった。

取材に応じた松田オーナーが心境を明かした。09年の巨人入りまで2度、他球団の指名から入団を拒否した経緯もあったため、「かわいそう」と判断を迷わせたという。その上で「育成でやってほしいという人もいるが、4連覇したいし、その期待に応えないといけない」と決断した。この日、長野は「3連覇している強い広島カープに選んでいただけたことは選手冥利(みょうり)に尽きます」というコメントを発表。同オーナーは「それは良かった」と安堵(あんど)した。入団会見は20日以降を予定。背番号は空き番号から選んでもらうことになる。

広島は大型補強せず、自前で選手を育成し、チームを作ってきた。リーグ3連覇を達成した昨年も投打の主力は生え抜きばかり。過去の人的補償も、07年は阪神から赤松(当時25歳)、13年は巨人から一岡(当時22歳)と、若手中心。しかし今年は4連覇と悲願の日本一達成のため、ベテラン補強にかじを切った。松田オーナーは「現場が決めることだが、現実的に3番を打てる選手」と話した。長野の昨季年俸1億9000万円は、歴代の人的補償選手では野手最高額に並ぶ。

若手野手や手薄な左腕投手も検討されたが「来年1年通して戦力となる選手」が選考の大きな柱となった。丸だけでなく、昨年限りで新井が現役を引退。若手の台頭に期待しつつ、主力級の力を持った選手を求めた。長野はFA権を取得しており、来オフに行使する可能性もゼロではない。チーム内でも菊池に次ぐ高給選手で、年齢も野手では石原、赤松に次ぐ。それでも鈴木球団本部長は「リストの中で一番いい選手を選んだ。いろんなことを精査して長野選手にした。まだ数年は輝ける」と期待する。

もちろん「育成のカープ」の看板を下ろすわけではない。球団幹部は「あくまでも競争」と口をそろえる。長野の経験をチームに還元し、競い合うことで若手の台頭も期待する。このオフ最後の補強の一手はチームに大きな影響をもたらすに違いない。【前原淳】

◆長野久義(ちょうの・ひさよし)1984年(昭59)12月6日、佐賀県生まれ。筑陽学園-日大-ホンダ。日大4年の06年ドラフトで日本ハム4位指名を拒否。ホンダ2年目の08年はロッテ2位指名を拒否し、09年1位で巨人入団。10年新人王。11年首位打者、12年最多安打。11~13年にベストナイン、ゴールデングラブ賞。11年10月22日横浜戦で代打満塁サヨナラ本塁打。13年WBC日本代表。15年3月にテレビ朝日の下平さやかアナウンサーとの結婚を発表。昨年12月、3000万円増の年俸2億2000万円で契約更改していた。180センチ、85キロ。右投げ右打ち。

◆高額2位 長野の昨季年俸は1億9000万円。人的補償選手の旧年俸では06年工藤(巨人)の2億9000万円に次ぎ、05年江藤(巨人)の1億9000万円に並ぶ高額になる。生え抜き野手の人的補償では05年小田、13年脇谷(ともに巨人)の8年目を上回り、長野の9年目が最長。