谷川九段が阪神藤浪に贈る金言「逆転の発想」

大の阪神ファンの谷川浩司九段(撮影・松浦隆司)

<拝啓、矢野様~各界の虎党が提言~>

神戸市在住の将棋の谷川浩司九段(56)は小学生のときからの阪神ファン。最年少、21歳で棋界の頂点となる名人位についた勝負師は、復活を期す藤浪晋太郎投手(24)に「逆転の発想」をアドバイスした。矢野阪神には若手の台頭を期待し、高いレベルでのチーム内競争を期待した。

矢野監督とはテレビ番組で共演。直接、会った回数は少ないが、人柄は誠実な印象が残っている。

谷川 昨季、矢野監督は2軍の監督をされていたので、若手のことは分かっている。チームには若手の投手も打者も出て、花に例えるなら芽が出ている状態。若手が花を咲かせるには、矢野監督が適任と言える。

将棋界では最年少プロの藤井聡太七段(16)が登場し、一気に活気づいた。

谷川 将棋の世界でも、若い人は勢いで勝てる時期もあるが、1つずつレベルアップしていく。ただ勝つことで相手に研究され、そこで勝つことがホンモノの強さになっていく。昨シーズン、年間、活躍できたのは糸原選手ぐらい。もちろんケガもあった。北條、陽川選手…。一年を通じて活躍できる、もう一段上のレベルに引き上げるのが今年の大きな課題です。

昨年2月、藤井が全棋士参加の朝日杯で優勝したとき、谷川は20代、30代の中堅棋士に対して「君たち、悔しくないのか」とコメント。重みのあるゲキを機に、中堅が奮起した。

谷川 チームが強くなるには若手の台頭にプラスアルファが必要になる。阪神には30歳前後の主力が少ない。中堅、ベテランが奪われたポジションを再び奪い返す。高いレベルでチーム内の競争をしてほしい。

プロ野球監督と棋士は似ているとよく言われる。将棋の駒は20枚。個々の特性を生かし、勝利を目指す。

谷川 矢野監督は各選手と話をして、その選手が何をしたいかを聞かれたとか。矢野さんらしいなと思った。もちろんすべての選手の希望を通すことはできないが、選手は将棋の駒と違う。それぞれに考え方、感情がある。コミュニケーションが出来ていれば、選手は希望と違っても、納得できると思う。

今年、矢野阪神に期待するのはまずはAクラスだ。

谷川 藤浪投手がエースとして活躍すれば、他の選手も活気づく。技術的なことは分からないが、彼はプロ6年間で50勝。24歳で50勝の投手はそれほどいないはず。最初の3年と後半の3年をひっくり返したら、藤浪投手は順調に成長していることになる。

入団3年目までは3年連続2ケタ勝利で合計35勝。その後の3年間は15勝。谷川は昨年10月、史上5人目の通算1300勝を達成した。1勝の難しさを感じた年もあった。

谷川 将棋の世界は年間、平均して公式戦で20回ぐらいは負ける。10回しか勝てない人もいれば、40回勝つ人もいる。大事なのは負けから何を学ぶか。いい時期、悪い時期は必ずある。苦しんだ経験をどのように次に生かせるか。何年か後、あの苦しい3年間があったから、今の自分があると思えるようになってほしい。【取材・構成=松浦隆司】

◆谷川浩司(たにがわ・こうじ)1962年(昭37)4月6日、神戸市生まれ。73年に奨励会入会。76年に14歳8カ月で四段に昇格しプロ棋士に。中学生棋士誕生は加藤一二三九段以来、22年ぶり2人目。83年史上最年少の21歳で名人。将棋界の7大タイトルを計27度獲得。12年12月に日本将棋連盟会長に就き、17年1月に辞任。終盤の強さは「光速流」と呼ばれる。