佐々木と奥川高3投手実力は大谷より上/西本聖分析

上から3月、作新学院との練習試合で投球する大船渡・佐々木の連続写真、下は3月のセンバツ習志野戦で投球する星稜・奥川の連続写真

<解体新書 特別版西本聖氏>

これが怪物のフォームだ。選手のプレーを連続写真で分析する「解体新書」。今回は国内高校史上最速の163キロをマークした大船渡(岩手)・佐々木朗希投手(3年)と、センバツで完成度の高い投球を披露した星稜(石川)・奥川恭伸投手(3年)を日刊スポーツ評論家の西本聖氏(62)が分析。両右腕をともに逸材と高く評価しながら、さらなる伸びしろとなりうる箇所を指摘した。

   ◇   ◇   ◇

現時点において、両投手とも今年のドラフトで1位指名されるのは間違いない。身長(佐々木190センチ、奥川183センチ)に比較すると、まだ線の細さは気になるが、これだけの長身でありながら、体をダイナミックに使える投手はなかなかいない。2人とも何年かに1人の逸材だと断言できる。ただ、投げ方を見ると、同じ右の本格派でもタイプは違う。

両投手とも、セットポジションからの投球。<1>(1)の立ち姿を比べると、奥川の方が右足の上に頭の位置があり、軸足にしっかりと体重を残そうとする意識が強いように感じる。<2>(2)から左足を上げ始め、<3>(3)が1番高い位置。ここまでの奥川は完璧。プロで何年もやってきた投手のような“どっしり感”がある。頭がホーム側に流れそうだった佐々木も、スパイクを三塁側に放り出すように高く上げながら、<4>ではスパイクを体に近づけるように引いている。これだけ高く上げ、動きも大きいのに軸足がブレていない。足を大きく動かしても、軸足に真っすぐに体重が乗ることを確認しているのかもしれない。

2人とも高く上げた足を、<5>と(4)でそのまま下に落としている。このように下ろせば、軸足にしっかりと体重が乗り、頭はホーム側に流れない。だから、きれいなヒップファーストができている。ヒップファーストはホーム側にお尻だけが突き出る形だが、無理にお尻を突き出そうとすると、重心がホーム側に流れ、軸足に“タメ”がなくなる。両投手とも、力が右足の付け根にたまっている。

修正した方がいいのは、佐々木の<6>から<7>のテークバック。右肘が背中側に入って上がるため、ボールを持つ手が高い位置に収まりにくく、ここから投げると肩肘に負担がかかりやすい。肩肘の関節が柔らかいため、<8>から<9>では、それほど左肩が開かずに投げられているが、ケガの予防のためにも、肘が背中側に入りすぎないように修正した方がいい。肘からボールを上げるのではなく、ボールを持つ手から持ち上げていってもらいたい。

奥川も若干、右腕が背中側に入るが、上半身の使い方は合格点。(5)から(6)にかけて、佐々木よりボールを持つ手から上がっているのが分かるだろう。その一方で下半身の使い方に気になる点がある。(6)で左足が上がりすぎる。左足はせっかく低い位置から地面にスライドするように出ているのに、これだけスパイクの裏が捕手方向にめくれてしまうと、ドスンとした着地になる。だからその反動で(7)では顔が上を向いてしまう。まるでジャンプして投げている感じだ。やはり左足の踏み込みは、ジワッという感じでゆっくりと力強く踏み込んだ方がいい。そうすれば制球力がよくなり、高めに抜ける球も減る。

(8)と(9)でも左膝が突っ張りすぎ。佐々木の<10>と<11>と比較すると、奥川がどれだけ突っ張っているのかが分かるだろう。投げ終わった(9)と<11>も比べてほしい。奥川は右足が浮いているが、佐々木はまだ右足のつま先が地面に着いている。腰の向きを見ても分かるが、佐々木は右腰が残っているが、奥川は右腰が前に出てくる。下半身の使い方は佐々木が良く、腕を振る軌道が投げる方向に向いている。奥川は一塁側の方向に引っかくような軌道で、これも高めに抜けたり、シュート回転する球が多くなる原因になる。

佐々木の<12>と<13>のフィニッシュは完璧。これだけ手足が長く、スタンスが広いにもかかわらず、しっかりと左足1本で立て、投げ終わりも体の向きも捕手の正面で収まっている。奥川の(10)と(11)も悪くないが、もっと一塁側への傾きがなくなるといい。

両投手とも、高校3年での投手としてだけの実力ならば、大谷より上だろう。特に佐々木は、今まで見たことがないほどのスケールの大きさを感じる。奥川のいる星稜は甲子園の優勝を目指せるチームで、佐々木のいる大船渡は甲子園出場を目指しているチーム。ある程度の連投は課せられるだろう。心配なのはダイナミックなフォームからくる体への負担。大きなケガがなく、プロ入りしてくれることを願っている。(日刊スポーツ評論家)