原監督の采配ずばり、受け継がれる長嶋監督の秘伝

6回表、戦況を見守る原監督(中央)(撮影・上山淳一)

<阪神0-2巨人>◇20日◇甲子園

受け継がれたタクトを振った。巨人原辰徳監督(60)がベンチを統率し、平成最後の「伝統の一戦」で勝ち越しを決めた。

今季2度目のスタメン起用した石川慎吾外野手(25)が1号決勝2ラン。1回には前進守備を敷いた直後に二塁ゴロと、攻守に采配がずばり的中した。3度目の就任となった指揮官は、一変した若きコーチ陣とチームを強固にまとめ、阪神に32年ぶり5度目の開幕5連勝を飾った。

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五分五分に揺れる針を迷わず動かした。2回1死一塁。原監督はバックスクリーン左に飛び込む石川の1号決勝2ランを見届けると、右隣の吉村打撃総合コーチを指さした。「吉村コーチが『ぜひ、使ってくれ』と。彼の強い言葉に後押しされて、使って良かった。私はコーチの言うことを全て聞きますから」。前日19日に3安打の亀井ではなく、陽岱鋼でもない。試合前まで今季無安打だった若武者の起用で勝負を決めた。

呼び水は1回の守備にあった。阪神近本の内野安打に失策が重なり、いきなり無死三塁のピンチを迎えた。1死後、打席には糸井。カウント2-1の3球目までは遊撃手坂本勇だけが前進守備を敷いた。カウント2-2になり、定位置だった二塁手山本も前進した。元木内野守備兼打撃コーチは「初回だけどやすやすと点をあげたくない。データの部分もある。監督が指示を出してくれたし、はまったからうれしいよね」。狙い通りに糸井を平凡な二ゴロに仕留め、得点を許さなかった。

ミスターから受け継いだ“秘伝の采配”がある。ヘッドコーチ時代にスタメンを当時の長嶋監督に提出する役割を担った。「いつも長嶋監督は『うん』とうなずくだけだった。だから私はこれでいいんだと思っていた」。ある試合前に本当の正解を知った。「その日は『それだよ!』と言われた。その時に分かった。そういうことだったんだと」。否定には思考を求める。肯定を明確に示し、コーチ陣を育てるのも監督の役割だと教えられた。

第3次原政権を、吉村打撃総合コーチ以外は新任コーチで組閣した。リーグ優勝7回と百戦錬磨の指揮官は、選手にとどまらず現場未経験だったコーチも束ねる。阪神戦は開幕から5連勝で突き進むも「まあ、でも1戦1戦、まだまだ始まったばかりなので。また明日は新たなスタートラインで競いたいと思います」と締めた。キラリと光る原監督の眼光に、無限の奥行きが備わっている。【為田聡史】